第1218話 ドラマティック父の日

 大丈夫、そんなドラマティックじゃありません。

 

 さて本日は、宇部家きってのアーティスト、息子君のお話です。


 最近の彼は相変わらずお絵描きしたり、折り紙したりとアーティスト活動に余念がありません。年相応(?)に、ドリフを知ったり、パパのスマホを借りて動画を見たり、ゲームというものを覚えたり(ただしWii)しましたが、それでもアーティスト活動に重きを置く男のようです。


 さて、そんなアーティスティックな息子君は、学校でもそのアーティストぶりをいかんなく発揮しております。彼が最も輝く場、それは図工の時間です。


 毎回図工の授業があると、我々はソワソワです。一体どんなとんでもない作品を作り上げてくるのかと。母の日には、カードを作ってきてくれました。私の似顔絵と、心温まるメッセージ入りです。即『大事なもの(紙作品関係)ファイル』にしまいました。


 さて、母の日があるなら当然次は父の日です。母の日カードはどういうわけか緑色(母の日なら普通赤を選ぶのでは、というのがたぶん凡人の発想なんだろうな)でしたが、父の日は黒です。漆黒です。なぜそんな闇の色を選んだのかと思いましたが、それこそが凡人とアーティストの違いなのかもしれません。パパ、普段黒い服なんて着ないぜ……?(もちろん私もそんな鮮やかな緑なんて着ないけど)


 それはそうと、さぁ、カードです。旦那の手にカードが渡りました。もう泣く準備はオーケーだと旦那も意気込んでおります。


 まずはもちろん旦那が単独で堪能します。


 いざ! と開き、ふんふんと読んだ旦那が、「ぶはっ」と吹き出しました。もう最高、と言いながらこちらに見せてきます。

 

 黒の厚紙を2つに折りたたんだカードです。右半分に白い紙が貼られていて、似顔絵付きのメッセージがありました。


 メッセージはこうです。


 お仕事がんばってくれてごくろうさまです。

 お仕事するたびけがをします

 でも父さんははたらき物です。

 これからもお仕事がんばってください。

(原文ママ)



 あなたのパパ、お仕事する度に怪我なんてしてたっけ!?

 そんなドラマあったっけ!?


 そんな思いメッセージを乗せて旦那と目配せします。


「ううん、俺そんな怪我とかしてないよ……?」


 無事にこちらのメッセージは届いた模様。


 まぁ確かに擦り傷とかちょっとした切り傷は当たり前みたいなところあるけど……えっ、もしかしてそれ!? 確かに子どもにしてみたら擦り傷も切り傷も結構な怪我か!?


 待って、ママだってお仕事で指切ったり(主にダンボールをたたむ時など)するよ!? 母の日はそんなドラマティックじゃなかったじゃん?!


 さらにドラマティックは続きます。


 左側には彼の折り紙作品が貼られておりまして、父の日らしくネクタイと、それから時計でした。旦那はネクタイをするような仕事ではないのですが、父の日といえばネクタイみたいなところがあるのでオッケーです。父の日のアイコン的な。


 そしてその時計ですよ。時刻がですね、『4時4分0秒(仮)』みたいな感じなんですよ。何だこの時間、って思ったら、


440


 なんですよ。実際の名前も数字にしようと思えば出来るやつなんですよ! 芸が細けぇなぁ!


 そこでもひと笑いありましたが、なんとその時計、ポケットになっておりまして、中にはさらにお手紙が……! 顎部分を引っ張ると開く猫の折り紙でして、ワクワクしながら指示通りに引っ張ると――


 お仕事あきらめないでがんばってね!

(原文ママ)


 パパ、仕事で挫けそうになってると思われてる!


 すごい、すごいよ息子。

 お前のパパ、毎日挫けそうになりながら傷だらけになって働いてるんだな。もう泣きながら「ううう、家族のためにも諦めないぞ……!」って汗と涙を拭う男の姿が浮かぶようだよ!


 ただ、あれだな。パパそんなにドラマティックには働いてないよ。家族のために一生懸命働いてはいるけども。


 でもありがとう息子。パパはちょいちょい眺めてはニヤニヤしています。

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