第1208話 無敵のスター

 スーパーマリオブラザーズってあるじゃないですか。たぶん、日本人なら大体どの世代でも知ってるあの髭面の配管工ですよ(悪意のある紹介)。


 シリーズを重ねるごとにパワーアップアイテムも増えに増え、最初は食べると大きくなれるキノコと、火の玉を出せる花(火の玉を出せるようになる花って冷静に書いてみたら普通に怖い)と無敵になれるスターくらいだったのに、やれタヌキだカエルだ、羽を取ったらなぜかマントを装着して空を飛んだりするわけです。

 タヌキが地蔵に化けるのも、カエルは泳ぎが得意なのもまぁわかるとして、なぜ羽がマントになるんだ、と疑問に思ったりもしましたが、まぁそこは良いです。


 スターですよ。

 一定時間無敵になれるアイテム。

 あれで調子に乗ってダッシュし、穴に落ちて死ぬ(そこは無敵じゃねぇのかよ)、というのが私の定番のやられ方でしたが、それもまぁ置いといて。

 

 私にとって、現実世界における『スター』ってなんだろう、って考えた時にですねふと浮かんだのが――、


 唐揚げだったんですよ。


 どうした宇部さん! って思われたかもしれませんけど大丈夫。私はいつだってだいたい正気ではないです。


 まぁ聞いてください。

 

 ある日曜日のことです。

 いつもの如く、私だけが仕事です。子ども達はお休み。旦那の仕事もお休み。こんな日はですね、朝のお洗濯も、それから夕飯も旦那がやってくれます。職場にも車で送ってもらい、帰りもお迎えがくる。こんなのもうほぼほぼお姫様ですよ。まぁお姫様は小売店で働かないけど。


 で、出勤前にですね、「夜ご飯何食べたい?」って話になるわけです。


宇部「そうだなぁ、明日の朝も食べられる感じのがいいなぁ(朝ご飯作るの面倒だから)」

旦那「成る程……」


 こうなると、高確率で候補に挙がるのはカレーです。それかもしくはシチュー。冬ならお鍋です。こちらはいつも献立を0から考えているわけですから、たまにはアナタも自分で考えなさいな、くらいの気持ちも正直あります。主婦の苦労を思い知れ。普段めちゃくちゃ大事にされているくせに、全く私という女はどうしようもないですよ。ただまぁ、『明日の朝も食べられる感じのがいい』というヒントは与えてますんでね? こんなのもう0から考えているとは言えないわけです。3くらいはある。


 それでですよ。

 旦那は「これだ!」みたいな顔して言ったわけです。


旦那「唐揚げにしよう。俺、揚げるよ」

宇部「な、何っ?! 揚げるの!? 揚げてくれるの?! お惣菜とか冷凍食品の唐揚げじゃなくて?!」

旦那「揚げるよ、俺が!」

宇部「神かよ!」


 というわけで、その日の夕飯は唐揚げになりました。当然山盛りの千切りキャベツもセットです。お味噌汁も多めに作って明日の朝も食べます。


 もうね、心の余裕がすごくて。

 その日、どんなにイラっとするお客様がいてもですね「ま、ウチ、今夜唐揚げなんですけど!」って。余裕の笑みですよ。

 

 仕事が終わって外に出るとですね、近くのスーパーの店頭にいる焼き鳥屋さんの屋台の匂いとかもうこっちを殺しに来てるとしか思えないくらい香ばしいんですけど、全然負けなかったですから。


「へぇ、焼き鳥? ふぅん、美味しそうじゃない。でも、今日はウチ、唐揚げなんでごめんなさいね(フッ」


 こうですよ。ちょっとミステリアスなイイ女ムーブですよ。焼き鳥にも負けないんですよ、唐揚げは。だって唐揚げですよ?! もう朝の時点で晩御飯が唐揚げ(しかも揚げたて)なんて、予告ホームランみたいなものですからね。優勝が確定してましたから。いまなら隣の家がカレーでも勝てる。


 そんで実際ホームランでしたから。

 

 もうこれ以上はないだろうな、って思ってたんですけど、その翌々日が餃子で、「あれ、もしかしてこれも優勝するやつなんじゃない? 私今日も勝ち戦なんじゃない?」って思いながら仕事してましたね。


 あれね、結局のところ、私にとっての無敵のスターは食べ物なんだな、って。

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