第1206話 それは食べ物じゃないからね

 せっかくなのでね、結婚記念日ディナーの話をもう少しさせてもらおうかなって。もうほら、こんな機会なかなかないのでね? なかなかも何も、こんなの年イチですから。一人五千円とかするディナーなんてあなた、年イチよ。当然でしょう。


 それでですよ。

 普段はね、外食ったって吉〇家の牛丼かす〇家の牛丼か、はたまたコ〇スかガ〇トかですから。もうこっちから「これが食べたいです、お願いします」って注文するやつですから。それがあなた。何が出て来るか全くわからないコース料理を食うってんですから。もうね、ドッキドキ。何が飛び出すかわからないんですから。一応ね? ガチで駄目なやつは言ってありますよ? 生魚と、火が通ってても貝類は駄目です、って。別にアレルギーでも何でもないんですけど、これだけは本当に苦手なので。


 だけどね、それ以外は出るわけです。

 そりゃあね、欲を言えば、生の玉ねぎとか長ねぎも苦手だし、メロンも食べられないし、カニも嫌だし、苦ネバ系の山菜とかもアウトだし、食用花も嫌ですよ。でもね、そこまで全部言ったらシェフも困りますって。これでも食っとけってカップ麺投げつけられるかもしれない。だからね? 本当の本当に吐く可能性があるやつだけを言ったわけです。


 そしたらね、出て来たのが、のっけからあん肝よ。


 生魚食えない人間が肝を食えるか、っつぅね。いや、食えたんですけど。よくよく考えたら私、お肉は大好きなんですけど、内臓はアウトなんですよ。ホルモンとか駄目。臓物なんてホラー映画でさんざん見てるのにね。臓物って書くなよ。


 それでですよ。魚の白子なんかも全然食べないんですけど、アウト食材として挙げたのはあくまでも生の魚と貝類なのでね? あん肝は駄目とは言ってないわけです。それでまぁ食べてみたら全然食べられたんですけど。かといって自ら「あー、あん肝食いてぇなぁ」とはなりませんけどね。


 そんでですね、運ばれる度に「こちら○○の○○でございます。野菜は○○を○○して○○産の○○を使った○○ソースを~」なんて説明が入るような料理を食べるとなると、やはり食レポ的なことをしたくなるのが我々でして。


宇部「あれだね、その、このソースがあれだよね。引き立てるみたいなところあるよね」

旦那「わかる。その、こののど越しとかが何かね。鼻を抜けたりとかね、そういうのあるよね」


 もうね、芸能人ってすごいんだな、って思いますね。何だ我々の語彙力。しかもね、公表していないとはいえ、妻は小説とか書いてるんですよ。最近は書いてないけど、異世界グルメ系のやつだって書いてるんですよ。こんな語彙力で大丈夫なんか。


 するとね、やはり旦那がやってくれたわけです。


旦那「天鵞絨ビロードのような舌ざわりっていうかね」


 天鵞絨のような舌ざわり! 何かたまに聞くやつ! たまに聞くけど結局どういう舌ざわりなのか庶民の私には全くわかりません! 当方、実際に天鵞絨なんて食べたこともないからして!


宇部「その『天鵞絨のような~』ってたまに聞くけどさ。結局どういう舌ざわりなの? 私天鵞絨なんて食べたことないからさ」

旦那「そもそも天鵞絨は食べるものではないです。たぶんほら、アレだよ。舌を滑るのがもう天鵞絨みたいにするっするっていうか」

宇部「確かに天鵞絨ってするするしてるけどさ、あれ、逆側から触ったら毛がざわざわってなるじゃん。それについてはどうなの」

旦那「逆から触るっていうのはさ、この場合だと即ち『逆流』ってことだよね? 逆流した時の舌ざわりとかはレポートしなくない?」

宇部「確かに……」


 ていうか普通に放送事故だわ。逆流って、言葉選んだけど、つまりはゲ□だからね。


 どう考えたってヒソヒソ話のトーンだったらOKとかいう内容ではなかったですね。

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