第920話 重いマカロン
ないのなら
作れば良いじゃん
重い過去
というわけで。
瓢箪から駒、身から出た錆、嘘から出た真、仏の顔も三度まで、閉店セール明日まで!
もう何のこっちゃって感じになりましたけど、完全にいま書いている新作に引っ張られています、ノリが。こんな話じゃないんですけど、ノリと勢いのやつなもので。
先日書いたマカロンの重い過去云々の話(第917話)でですね、ないなら作っちゃいなYO! 的なコメント(こんな感じではないけど)をいただいたものですから、初心に帰ってね、いつだって私はないなら作れの精神でやって来たじゃない、ってね、そんな気持ちでマカロンの重い過去を捏造することにしました。さらっと捏造するとか言っちゃう。
マカロン職人さん達、先に謝っておきますね。ごめんなさい。悪気はないんです。こういうのが好きなんです。いつか芥川賞とかとったら、ちゃんとマスコミの前で「あのマカロンの重い過去は私が作った嘘のやつです」って謝罪しますんで。
あとぶっちゃけ、歴史ものにめちゃくちゃ弱いので、この時代にこれはねぇよってのもあるでしょうし、その領主トチ狂ってんな、ってのもあるとは思いますが、おかしなところはすべて異世界ファンタジーに各々が脳内で置き換えてください。
というわけで、例の卵黄のみを納めさせるトチ狂った領主のお話でいくことにしました。
7世紀のフランス。
ボンジュール地方(フランスの地理なんてさっぱりわからねぇ)のシルブプレ領では、領主であるセシボン伯爵の圧政により、領民達はその日の糧を得ることも難しくなっていた。領内では大小さまざまの犯罪が跋扈し、誰もがその日生きるための糧を得ようと飢えた獣のように目をギラつかせていた。
カビの生えたパンでもご馳走だった。道端の雑草をちぎって食い、根を掘り起こしてしゃぶる者もいたほどである。
「このままではいけない」
立ち上がった者がいた。
親を失った子達を引き取って育てている(のちの孤児院)修道女マリア・マキャロンである。
「心まで貧しくなってはならない。我々は誇り高きフランス国民(宇部のフランスのイメージ)である」
そこで彼女は、卵白に目を付けた。当時税として納めなくてはならないのは、鶏卵のうちでも卵黄のみだったのである。セシボン伯爵は卵黄をこよなく愛し、贅沢にも卵黄のみで作ったプディングを食事の度に食べていたのだという。
卵白だけが残されても、当時、保冷設備などはなかったため、捨てるしかなかった。酔狂な男が生で飲んだりしていたが、周囲の人間からは狂人として恐れられていた。
ちなみに当時は卵黄のみに栄養があると考えられ、卵白というのは卵黄を守るための緩衝材扱い的を受けていたのである。
捨てるくらいなら。
マリアは思った。
これで何か作れないかしら、と。
彼女はまず、大量の卵白をかき混ぜてみた。するとどうだろう。透明のどろどろした卵白が次第に白くふわふわになっていったではないか。
これを焼いたらパンのようにならないかしら。
思い立ったが吉日、というか、即行動に移さねば卵白は傷んでしまうし、ふわふわもヘタれてしまう。
マリアは恋人のメレングに泡立て作業を代わってもらい、竈門に火を入れた。ちなみに、卵白を泡立てたものを『メレンゲ』というが、これはマリアの恋人メレングから名付けられたものである。
程なくしてそれは焼き上がった。
想像していた柔らかなパンではなかった。それは、触るとざらりとして、硬かった。
恐る恐る手に取ってみると、驚くほどに軽い。食べられるのだろうか、と尻込みしたが、生の卵白を飲んだ男の存在を思い出し、自らを奮い立たせた。生で食えるものを焼いたのだ。食えないわけがない。
それはお世辞にも美味とは言えなかった。ただひたすら軽いだけで、味はなかった。けれども、食えなくはない。あまりにも軽すぎて腹に溜まる気もしなかったが、雑草をしゃぶるよりは、フランス国民としての矜持は保たれる気がした。
その日から、マリアはせっせと卵白を焼き続けた。メレングは愛する恋人のためにひたすら卵白をかき混ぜ続けた。
そうして焼き卵白を子ども達に与え、彼らの空腹を満たしたマリアは聖マキャロンと呼ばれるようになったのである。
後に彼女のひ孫のメアリ・マキャロンが「さすがに何の味もないのは」と泡立てた卵白に砂糖や着色料を混ぜると、これが評判を呼んだ。メアリの家の前には、彼女の甘い焼き卵白を求める人々が列をなした。
やがて彼女の焼き卵白は『マカロン』と呼ばれるようになり、彼女の恋人の案(「二つのマカロンをこのクリームで僕達のようにくっつけたらどうかな、アムール?」)によって間にクリームを挟む現在のマカロンになったのである。
ちなみにこの恋人の名は『ガナス』。ガナッシュクリームの語源となったと言われる男である。
おかしいな、全然重くないんだが? やっぱ自作じゃないと駄目なのかな。もしくは字数が足りないか。
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