第844話 それは売ってません
日々、色んなお客様がご来店されます。
お客としてお買い物している分には、なかなか変わったお客さんに遭遇することってないんですけど、店員として働いておりますと、結構な確率で不思議なお客様とエンカウントします。
先日の大型獣疑惑のお客様もそうですし、定期的に何十匹ものメダカを買っていかれるお客様に、世間話程度に「いつもたくさん買っていかれますね」と言うと、そのメダカは実は大型の古代魚の生餌だったとか(知りたくなかった!)、そんなことがあったりします。
あと、これは私がまだまだ秋田弁のネイティブの発音に慣れていないだけではあるんですけども、
お客様(年配の男性)「おいネーチャン、マッツあるか、マッツ」
宇部「マッツ……? 松? 門松?(ちょうどお正月間近だった)」
お客様「マッツよ、マッツ(シュッ、と何かを擦る動作)」
宇部「マッツ……? マッチですね! ございます! こちらでーす!」
こういうのは日常茶飯事。
先日はですね。こんなこともありました。
お客様(年配の女性)「テープありますか」
宇部「色々ございますが。ガムテープですか? それともセロテープですか?」
お客様「そういうんじゃなくて」
宇部「べたっと貼るテープじゃないってことですか?」
お客様「そうそう、ナイロンのテープ」
宇部「ナイロン……ビニールじゃなくて?(スズランテープ的な)」
お客様「かごを編むやつよ」
宇部「かごを編むやつ……わかりました、こちらです!」
かごを編めるテープといえば、紙バンドとPPバンドなんですが、ナイロンと言っているので、PPバンドの方だろうな、と。で、その読みが当たってですね、無事ご案内は完了ですよ。そしたらしばらくしてまた同じお客様が、私を呼び止めたわけです。
お客様「めんようのテープありますか?」
宇部「めんよう……?」
もう頭の中はね、『めんよう=綿羊』ですよ。だってほら、その前にこちらのお客様、PPバンドでかごを編むって話をしてますから。だからとりあえず手芸関連なのかな、みたいな。でも綿羊テープなんて売ってませんし、そもそもそういうのがあるのかもわかりませんし。
だけど基本的にウチの店では「ありません」と言ってはいけないことになっておりまして、まずは探さなくてはならないのです。そして、ないなら取り寄せましょう、と。
だから、とにかくいま店にないことは確実ですから、取り寄せる方向で話を進めます。まずはそれが何のカテゴリに属する商品なのか、本当に手芸用品なのか、その辺を聞き取らなくてはなりません。
宇部「その綿羊のテープというのは、あれですか、毛糸みたいなやつですか?」
お客様「いんや? めんようよ、めんよう」
宇部「めんよう……ですから、ふわふわの……」
お客様「めんよう、歌っこ(『~っこ』は秋田弁)の」
宇部「歌……? めんよう……(ピコーン! 民謡!!」
お客様「んだ」
綿羊ではなく、民謡だったのでした。
しかも、カセットテープ。
せめて『カセット』と言ってくれたらもっと早くに正解を導き出せたんですけどね。
結局、CDはあったのもののテープの方はありませんでした。
そして極めつけはこちらですね。
お客様(年配の女性)「ロブスターはどこですか」
宇部「(どこも何も、完全に売ってねぇやつ!)ええと……。当店にはそういった生鮮食品は取り扱いがなくてですね」
お客様「ハァ!?」
宇部「(うっそ、何で既にご立腹なの?! 私のいまの態度、問題ありました?)ええっと……」
お客様「ロブスターですよ?!」
宇部「ロブスターですよね? ……あの、エビ、ですよね……?」
お客様「ハァ?! あなた、ロブスターがエビだっていうの!?」
宇部「(エビじゃなかったら何なんだよ! あいつエビの仲間じゃねぇのかよ!)ええと、そうですね。あの、ロブスターはエビ……だと思うんですけど……」
ここでハッと気が付いたんですよ。あれ、もしかして秋田県で何か別の道具のことを『ロブスター』って呼んでたりするのかな?! って。
だからね、結構ぷりぷりと怒ってらっしゃるお客様にね、勇気を出して聞いてみましたとも。
宇部「すみません、あの、もしよろしければその……どういう時に使うものか教えていただけたら……」
これで「祝い事の席などで食う」って返ってきたら完全にロブスターだぞ、と。
お客様「ハァ?! そんなの、魚を焼く時に、使うに決まってるでしょ!」
お客様それは『ロースター』でございます!
もう答えがわかったことでちょっとおかしなテンションになってしまってですね!
宇部「おー客様ぁ! それはロースターですね! ございますっ! ロースターはごぉざいますともぉっ!」
ぃよっしゃぁ、わかったー! ある! それならある! って具合にロースターを連呼しちゃった、っていう。
お客様は結局ロースターを買いませんでした。
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