第839話 大型獣疑惑
これね、職場の話なんですけど。
って書き出しだと、ちょっとホラーっぽいですよね。まぁ、ある意味ホラーみたいな話ではあるんですが。職場の話なのでちょいちょいフェイクを入れつつ。
ウチのお店はですね、配達サービスもあるんですよ。市内のみですが。
といっても、従業員が配達するわけではなくて、そのための業者さんが毎日来てくれる感じで。基本的に翌日配達です。
ただ、送料が年々高くなっててですね。
前は『○○○○円以上お買い上げで無料』だったのが、一律いくらになったり、さらにそれが高くなったり。そんで、今度は地区ごとに値段が設定されるようになって、現在はさらに重さによって値段が跳ね上がるシステムになったわけです。
こうなるとですね、まぁ困るのはお客さんではあるんですけど、一番困るのは従業員なんですよ。
ちょっと前まで、
「配達ですか? はい、○○○○円超えてますね。配達料無料ですね。はーい、承りましたー」
だったのが、
「配達ですか? ええと今月から配達料金がかかるようになったんですけど……よろしいです?(お会計は既にレジで済ませているため、さらにその配達料金のみの会計をしなくてはならない)」
↓
「配達ですか? え? こないだまでは配達料金○○円だっただろ? えっと、はい、そうなんですけど、あの、値上がりしまして……」
↓
「配達ですか? はい、どちらの地区で? あっ……そちらですと配達料金○○円ですね……(うわぁ一番高いところじゃん)」
↓
「配達ですか? はい、それじゃあちょっと一旦お荷物お預かりしますね。――ぃよいしょぉっ!(はかりの上に乗せる。配達希望だから当然すげぇ重い)」
って感じなわけです。
それでもまぁそんなに件数があるわけでもないので、そこまで苦ではないんですけど。ただ、そんなに件数がないということは、なかなかその業務を覚えられない、ということにも繋がるわけでして、PC入力とか、その何キロの場合はどこの配送業者に依頼するか、みたいなところとか、毎回しどろもどろなんですよ。
そんな中。
毎週のように電話で配達をお願いするお客様がいらっしゃいまして。
そのお客さん、以前は一ヶ月に一回とかそういう感じだったんですけど、だんだんその間隔が短くなってきてまして、ちょっと前までは二週間に一回だったんですが、とうとう毎週になったんですよ。
で、毎回同じものを注文するので、そうなると重さも当然同じですし、住所も変わりませんから、「○○ですけど、いつものお願いします」だけで「かしこまりましたー!」っていう。実にスピーディー。PC入力もあっという間です。ただその品物の梱包作業が面倒なだけで。
でもね、それじゃあ何を毎週頼んでるのか、って話なんですよ。
それがね、大量のペットフードなんですよ。
本当にね、大量なの。
多頭飼い用の10㎏くらい入ってるドライフードを2袋と、三缶がセットになっている缶詰を30個(つまり90缶)。配達料入れると10000円超えるんですよ。
月一の時ですら、「さすがにペース早くない?」ってかなり職場内がざわついたオーダーなんですが、いま毎週ですからね。私、高校生の頃レトリバー買ってましたけど、20㎏くらいある大型犬ですら一週間でそれだけの量は食べませんでしたよ?
勇気を出した従業員が、「たくさん飼ってらっしゃるんですねー」って世間話程度の探りを入れたんですが、「そうなんですよ」ってさらっと返された感じで、なんかもうそれ以上深く突っ込めなかった、って。
いやもうこれ、業者のレベルでは?
多頭飼いっていうか、もう何十匹とかのレベルでしょ? 計20㎏くらいのフードに90個の缶詰よ?!
だからね、もういっそアレじゃないですかね、って。
飼ってるの、虎とか熊とか、そういう大型の獣なんじゃないですかね。って。
ある日突然この電話が来なくなったら、と思うと、何だか恐ろしいです。
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