第714話 インタビューとな

 息子がですね、学校から宿題を持ってきまして。

 それがアナタ、インタビューでして。


 何でも、生まれてからいままでの自分を調べて、成長したことを感じながら自分を紹介し合う、という授業をするらしく。


 提出するのは、写真を3枚。生まれて間もなくと、小学校に入る前のと、入ってからのと。それからインタビューのシートですね。

 

 まぁ、写真は良いです。それはもうわんさかあります。旦那とアレが良いかコレが良いかなんてワイワイしながら探しました。どれも可愛くてどうしたら良いのよコレ。ちょっともうこんな可愛い息子の写真を持っていって、またうっかり人気が出たらどうするの? とかそんなことを考えたりしてね。まったくもうこの親馬鹿共は。


 さて、そんなことより問題はそのインタビューの内容なんですよ。


 まだ生まれた日とか時間、身長体重なんかは良いです。そんなの母子手帳に書いてありますから。


 問題は、そう。

 

『あなたが生まれた時、お父さんやお母さんが思ったことや生まれた時のできごとを書きましょう』


 これ。


 いやもうね、正直に言いますよ?

 

 息子よ、君が産まれた時というのは、パパもママもそれはもう大変だったんだ。


 ママはママで三日も前から張り切って産気づいてるにも拘わらず、産道が全然開かねぇと来たもんだ。おっかしいなぁと思ったら、何、骨盤のサイズ的に無理?! ハァ?! ウチの子そんなにビッグベビーなのかよ! と思ったらベビーの方がビッグなんじゃなくてワシの骨盤がスモールってマジかい! ってやりとりの後に「いやー、宇部さん帝王切開になりそうなんですけど、さすがに元旦は人がいないんで、二日まで待って(テヘペロ」ですから。


 待って、って言われて中の息子が待ってくれるならいつまでも待ちますわ! それ、私じゃなくて息子の方に言ってもらえます? 何かこの子出る気満々で前進してるっぽいんですけど?


 とまぁそんなこんなでどうにか耐えに耐えて帝王切開ですわ。はい、パッカーン、で、おんぎゃあ、ですわ。え? その時の気持ち?


「あ、はい。どうも……(やっと出たか……)」


 だったからね。


 旦那も旦那で、いつもの優しい妻はどこ行った状態の私(普段から本当に優しい妻なのかは置いといて)にひたすらおろおろして背中を擦ったり何だりし、ろくに眠れもしない中、「旦那さん、こちらの書類にサインを(万が一奥さん死んでも文句言わんでね、的なやつ)」とか言われてギリギリの精神状態で、最愛(と思いたい)の妻がストレッチャーに乗せられて手術室へ運ばれていくのを呆然と見守り、その数十分後におんぎゃあですから。


 もうどっちも極限でしたからね、色んな意味で。

 

 やっと会えたね(キラキラ)みたいなやつ、なかったからね。

 

 お産はとっても大変で苦しかったけど、あなたの顔を見たら幸せが込み上げてきて涙が……みたいなやつ、なかったからね。


 お互いに「やっと……終わった……」みたいな状態だったから。

 産んだ後もしばらくは母子別室だったので、夜な夜なベッドで乳を搾って新生児室にお届けしてたから。切った腹が痛む痛む。あれね、痛みは感動に勝るね。感動してる場合じゃない。私は結局本番で披露することのなかったラマーズ法で痛みを逃がしながら搾りたての乳をお届けしてたから。


 って、言えるか、そんなこと!


 ええ、どうする? 多少の捏造もあり?! 

 提出期限(2/1)も迫っており、宇部夫妻は頭を抱えています。

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