第686話 おだやかな人

 2021年、娘のエピソードがちょっと足りないんじゃない? なんて思ってですね、来い! 娘のエピソード!! と密かに祈っていたわけです。


 そしたらまぁ、それなりのネタが降ってきましたのでね。2021年のネタ一発目が娘エピソードとは、さすがです。多少のパンチの弱さは否めませんが、そこはほら、母のこの……腕でね! どんなにしょうもないネタでも膨らませに膨らませ、薄めに薄めてきた私ですから、ここはひとつバシーッと親らしいところを見せたろうじゃないか、ってことで。


 お正月といえばですよ。余所のお家のことはわかりませんが、ウチの実家にしろ旦那の実家にしろ大晦日からご馳走が並ぶわけですね。ウチはおせちがある家(ちょいちょい手作り+買ったやつ)だったのですが、旦那の実家は「おせちなんて面倒くさいわよね」ってことでオードブル派。

 長男に嫁ぐにあたり、やっぱりこういう行事関係は張り切ってあれこれした方が良いのかな、とビビりまくっていたところへ、まさかの僥倖。もともとおせちは好きじゃなかった(魚卵以外の魚介に興味0、煮豆もそこまで好きじゃないし、かまぼこも特に食べたいわけでもない。栗きんとんは一口あれば良い)ので、なくても全然困らないのです。良かった、このお姑さん、私とタイプが似てるかもしれない(面倒なことはやらない)!


 というわけで、それでも何か嫁らしいことをせねば、と毎年筑前煮だけは作ってるんですけど、それくらいですね。で、それ以外で食卓に並ぶのは、子ども達が大好きな骨付きのお肉とか、ハムとか、揚げ物とか、とにかく高カロリーなもの達でして、去年(一昨年)までの私なら喜んでがっついていたんですけど、今回はそうもいかないわけですよね。


 頭の中は、


「どうにかこの年末年始、+2キロ程度に抑えたい」


 でしたから。ちなみに、努力の甲斐あって、+1キロで踏みとどまりました。


 そんなこんなで高カロリー(元旦は餅も襲ってくる)なお食事に加え、ずっと家にいるものですから、ついついお菓子にも手が伸びたりもし、いま思えば本当によく+1キロで済んだな、と。


 そんで、お正月あるあるだと思うんですけど、だいたいお昼くらいにはご馳走に飽きて来るんですよね。ウチの実家だと正月のお昼とかになると、インスタントラーメンが恋しくなったりして。父親がね、こっそり作りにいくんですよ。家族全員居間にいるわけですから、全然バレバレなんですけどね。


 それは旦那の実家でも同様らしく、


「ねぇ、お昼どうする? お蕎麦とかでも良い?」


 お姑さんがそう言いますと、その息子である旦那が、


「俺はもういっそカップ麺で良い」


 とか言い出すわけですね。オーケー、だったらカップ麺、食ったろうじゃん、って。


 ただ、年越し用に用意していた(そして食べなかった)お蕎麦が残っているので、義父母と私、娘はそれをいただき、旦那と息子はカップ麺を食べることに。子どもってカップ麺喜びますよね。私も小さい頃食べさせてもらえなかったので、食べられる時は大喜びだったものです。


 旦那はお蕎麦で、息子はワンタンの入った塩ラーメン。一体誰に似たのか、息子は塩派です。ウチ、塩派なんていないのに(旦那が稀に食べる程度)。


 蓋をべりべりーと剥がしますと、中の乾麺を見た娘がぽつりと一言。


「わぁ、おだやか~」


 ???


「娘ちゃん、穏やか、って何?」


 カップの中を覗いてみますが、穏やかな要素は見当たりません。強いて言えば、まぁ塩なので、全体的に色が白いというところでしょうか。


「ママ、わからないの? これ絶対おだやかな人じゃん」


 人?!


 ラーメンの中に、お前は何を見ているの?!

 やめて、新年早々!


 霊的な何かなの? 妖精的な何かなの?

 それともラーメン占いとかで、塩を選んだアナタは穏やかな人! みたいなやつがあるの!? だとしたらママはこってり味噌派なんだけど、どういう人になるの? 


 色々追及してみましたが、納得のいく回答は得られませんでした。母が悶々としながら麺を啜る中、娘はというと、お餅まで乗せてもらい、ご機嫌でした。


 ただ、餅は突っつくだけ突っついて残しました。何なんだお前。


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