第532話 アマビエちゃん

 土曜日、仕事を終えて帰宅しますと、早く上がったらしい旦那と、子ども達が既に帰って来ていたんですね。いつもなら17時くらいに旦那の仕事が終わって、実家にいる子ども達を回収して――で、土曜日は早めに上がることはあるものの、それでもだいたい帰宅時間は17時近くだったりするのです。


 で、帰宅して慌ててテレビをつけ、車の中で見てたクレヨンしんちゃんの続きを見る、というのが定番の流れなのでした。


 が、今回はどうやら15時くらいにはもう帰って来てたみたいで、居間はひんやりと涼しく、子ども達は何やら見慣れない番組を見ているのです。


 そっか、まだしんちゃんの時間じゃないのかー、なんて思いながらうがい手洗いを済ませておりますと、「お~か~え~り~、マ~マ~」と息子が精一杯のホラーボイスを出してくるわけです。その手に握られているのは何かめちゃくちゃほっそい手(色は青)。

 イメージとしてはあれですね、お祭りの外れくじのびよーんって伸びるグミみたいな手。あれ正式名称ちょっとわかんないんですけど、何かとにかくベタベタする材質のびよーんってするやつです。


 私目が悪いので、「めちゃくちゃ細い孫の手?」と思ったんですけど、近くで見たら、ストローで作った手でした。お前何作ってんだ。


 息子的には何かホラーな感じの手なんでしょうね、それをおいでおいでしながら一生懸命ホラーな声を出してるんですよ。まだまだだな、息子よ。ホラーはね、しゃべるのも怖いけどしゃべらないのも怖いのよ。得体の知れない怖さがあるから。ていうかお前、どこの誰だかバレバレだからな?

 

 そう、ちょうど何かホラーっぽい番組だったんですよ。それに影響を受けまくっていたようでして。もともと息子はホラーのモチーフ大好きっ子ですからね。骸骨とか、ハロウィン的なやつ大好物ですから。


 そんで、しばらくするとですね、『てれび絵本』って番組が始まったんですよ。へぇ、そんなのあるんだーって思ってましたら、どうやら今回は水木しげる先生の『妖怪絵本』のようでして、子ども達、妖怪も大好きですから、ウキウキで見始めました。


「これ、『ゲゲゲの鬼太郎』の人の本だよ」


 と教えてやりますと、


「何かちがうよー」


 とのお返事。

 まぁ、そうね。無理もないよね。わかる。でもママは個人的にはこっちの絵の方が好きなんだ。


 語りは佐野史朗さんでした。我々の世代ですと、佐野史朗さんといえばどうしても『マザコン』の四文字が浮かんでしまうんですが、まぁそこはおいときまして。


 うわー懐かしいー、って見ていたら、なんと『アマビエ』が出てきたわけです。わお、タイムリー。頼む、アマビエ様、まじでコ□ナどうにかして、って思いつつ。


 アマビエさんはこのコ□ナ騒ぎで一気に知名度をあげましたよね。私は一昨年くらいにゲゲゲの鬼太郎(高山みなみさんの)を見て知ったんですけど。いまじゃあもうメジャー級の妖怪ですよ。ウチの子ども達も「アマビエちゃんだー!」と大喜びですわ。


 ただですね。

 もう一度書きますけど、語りが佐野史朗さんなんですよ。

 いや、駄目とかそういうんじゃないんです。何かこう、落ち着いた、優しい声でね、良いんですよ。


 だからね、アマビエちゃんの声も佐野さんなんですよ。


 娘がね、心なしかがっかりしてるんですよ。


「……アマビエちゃんって、こんな声なの?」って。


 アマビエちゃん、男の人なの? って。


 え――……っと、うん、まぁ、妖怪であるからして? 男とか女とかそういうものを超越してるというか? 


 もう返答に困る困る。


 冷静に考えたら、これは『アマビエが、そう語ったんだよ』という話なので、別にこれがアマビエの声ってわけじゃないんですけど、私もぶっちゃけ、「いやーもうアマビエちゃんのきゃわいい女の子のイメージだからなー」ってちょっとがっかりしちゃったもんですから、「佐野史朗さんには悪いけど、アマビエちゃんの話なら女性にお願いしたかったな」なんて思ったりして。


 ごめんなさい、佐野さん。

 私はちょっとキャピキャピしたアマビエちゃんが良いんだ(鬼太郎アニメの影響)。

 

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