第420話 手料理を振る舞う

 先日ちょっと似たような話を書いたんですけども。


 料理のラインのお話ですね。

 カップ麺にお湯を注ぐのも料理にカウントする人もいれば、○○があればすぐ出来る系のレトルトすらも「こんなの料理じゃねぇよ!」って思う人もいるわけで。


 いまでこそこんな適当人間の私ですけども、独身時代は――というか、大学生の時分は多少張り切っていたわけです。大学生の頃の私といえばですよ、人生初彼氏が出来まして、人生で最もキャピキャピしていた時期でございます。そりゃあ料理も頑張るってなものですが、この彼氏が曲者でした。


 料理がめちゃくちゃ出来るタイプの男だったのです。


 それでもまぁ、彼女が作る料理を喜んでくれる人だったので、多少アレな出来でも美味しい美味しいと食べてくれ、私は無事、順風満帆な彼女ライフを送ることが出来ました。

 

 恋に恋しちゃう感じの人間っていうのは、このお付き合いの『先』のことまで考えちゃったりするわけで、私もそっち側の人間だったものですから、まぁちょっと結婚とかね、意識しちゃったりもして。結婚したらこんな名字になるんだなぁとか、そんなことを考えてニヤニヤしたりしてね。


 ただ、ふと思うんですよ。


 その彼、否定こそしないものの、レトルトは全く使わないタイプの人だったんです。


 めんつゆも自作ですし、麻婆豆腐も丸〇屋さんじゃないですし、チャーハンだって永〇園とかじゃないんですよ。いや、チャーハンくらい素を使わずに作れよ、って思われたかもしれないんですけど、私の実家ではチャーハンといえば永〇園の五目チャーハンだったんですよ。だから私、チャーハンってそうやって作るものだとずーっと思ってたんですよ。具は多少足しますけど、ベースは永○園だろ、って。まぁさすがにカレーはルゥを使ってましたけど。


 待て。

 私、この人と結婚したら、料理に関してかなり窮屈なのでは?


 そんな考えもよぎってですね。

 私がここから料理に目覚めでもしない限り、毎回食事を作るのが苦痛になるのではなかろうか。それでもまだ専業主婦ならやれるのかもしれない。けれども、私のこの要領の悪さで働きながらそこまでの料理を作るのは無理だ。


 なんて勝手に考えていたわけなんですけど、そんな結婚の『け』の字も出ることなくお別れしました。


 さて、時は流れ。

 皆さんもご存じの通り、その数年後、異動によって津軽海峡を渡り、生涯の伴侶と出会ったわけなんですけど、もうその頃になりますと、それまで以上に料理とか「食べられりゃ良いよね」状態ですのでね、手抜きに次ぐ手抜きですわ。ちょっと気になる男性とかがウチにふらりと立ち寄り、「今日は僕があるものでちゃちゃっと作るよ」なんて冷蔵庫を開けたところで、牛乳と豆腐と納豆くらいしか入ってねぇよってなもんです。これでちゃちゃっと作れるもんなら作ってみやがれ。


 そんな私が初めて旦那(しかもお付き合いする前)に食べさせた料理がですね。


 麻婆豆腐ね。

 もちろん丸〇屋様のやつですよ。甘口ですよ。その時の私はまだ中辛なんて食べられませんでしたから。いや問題はそこじゃないはず。

 ね、何せ冷蔵庫の中になんて牛乳と豆腐と納豆くらいしか入ってないんですから。だけどそういう系のレトルトは常備してるんです。

 恋人ですらなかったとはいえ、堂々と丸○屋の麻婆豆腐出してるんですよ。ここから恋に発展するとは思ってなかったのでしょうか。いや、既にロックオンしていたはずだ私は。なのに出しちゃう。丸○屋の麻婆豆腐出しちゃう。逆にこれで胃袋掴んでやらぁ。


 それでもね、美味い美味いって食べてくれたわけですよ。

 美味しいのはほぼほぼ丸〇屋さんの企業努力だよ。それと、お豆腐メーカーの企業努力だよ。私はそれを切って混ぜただけなんだ、ごめんな。


 それからお付き合いが始まっても、私の半レトルト料理に全く文句も言わないわけです。もしかしてそれは付き合い始めのキャッキャウフフな時期だからかな? なんて思ったりもしましたけど、それから10年以上経ったいまも、彼はレトルトに頼りまくりな私のご飯を美味しい美味しいと食べてくれるわけです。そりゃ美味しいですよ。何せバックにプロがついてるんですから。


 いまもほぼほぼ大きな不満もなくやって来れているのは、こういう部分でお互いに無理をしていないからなのかな、なんて思ったりします。


 まぁ、あの時、あの彼と上手くいっていたら、私はいまごろ料理研究家みたいな感じになって第二の平野レミと呼ばれていたかもしれませんが。


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