第411話 お牛様

 私ね、皆さんもご存じの通りアラフォーでしてね。まぁ酸いも甘いもアレしてきた大人の女性って感じのね、まぁ、見た目よりも精神がやや幼いことに定評のあるどこへ出しても恥ずかしい私なんですけど。


 まぁ、とにかく年齢だけでしたら結構立派な大人なんです。

 自転車にも乗れますしね。

 運転は出来ませんけど、自動車免許も持ってます。

 バリウムだって飲んだことありますしね。

 英検は持ってませんけど、漢検は持ってますしね。


 まぁ、それくらいしか思いつきませんけど、とにかくまぁ大人なのです。


 が、そんな大人な私でもですよ、まだ体験していないことっていうのは案外あるものでして、例えば石油を掘り当てるとかね。そういうのはほら、恐らく一生体験しないと思うんですけどね。温泉くらいならまだしも石油はねぇ……。いや、温泉もねぇよ。

 とにかく、そんな『今世のうちに体験出来るかどうかギリギリだな』っていうものの一つに『高級牛を食す』というのがあったんですね。


 テレビでね、テレビでっていうか『芸能人格付けチェック』ですよ、あれでね、超高級牛との比較でグラム1000円くらいの牛肉出て来たりするんですけど、むしろそっちの外れポジション、ウチでのご馳走ですけど!? って何度突っ込んだかわかりませんよ。それくらいウチでは牛は程遠いもの……っていうか、単に豚と鶏と羊が大好きっていうのもあるにはあるんですが。でも、あんまりご縁がないわけです、牛。牛乳は毎日いただいてるんですけどね。そうだなぁ、ハンバーグの合い挽き部分ですとか、やっすい切り落としとか、そういうやつしか買いません。



 が!!


 松阪牛さんですよ。

 こいつ、昔は『まつざかぎゅう』だったと思うんですけど、いつの間にやら『まつさかうし』になってるんですよ。何があったの、君。


 いや、そんなことはどうでも良い。

 当たったんですよ、『松阪牛〇キロ』みたいなのが。もちろん当てたのは私ではありません。私食べ物系の懸賞は応募しないんです。だって困りません? 新巻鮭とかまるまる一匹届いたら。捌けないんですよ。助けてさかなクン。


 お姑さんが当てたんですよ。ていうか、お姑さんも端から牛狙いで応募したわけじゃなかったみたいなんですけど、牛が当たってしまったらしくて。でもさすがに食べきれないってことで、ウチと、旦那の弟家族で分けっこしたわけです。


 ででーんと塊で来たのかなって思ったんですが、そんなことはなくて、分厚めの焼き肉用って感じに切られてて、パッキングされてました。助かるー。新巻鮭もこうやって切り身にしてくれるんなら、まぁ……いや、やっぱりいらないや。


 さてさて、お牛様ですよ。

 我が家にあの高級国産牛・松阪牛様がやって来たのです。


 その第一印象は――、


「うわっ、何この脂の塊」でした。


 というのも、私、お肉は大好きなんですが、脂身が苦手でして。ステーキとかとんかつでも脂身を除去してから食べたい派なんですよね。だから、正直ちょっと引きましたね。


 で、先日ホットプレート出して焼き肉にしたんですけど。

 

 脂がすげぇ。


 しまった、普通の鉄板にしちゃった。何かこう、溝のあるやつにすれば良かった。ここで揚げ物が出来んじゃねぇ? ってくらいの脂の量なんですよ。思わずチキンナゲットとか出してきて、そこで揚げ焼きにしましたもん。

 いや、美味しかったですよ。ああいま私、松阪牛食べてるんだ、っていう雰囲気も込みで最高でしたよ。子ども達よ、次は自分の金で食えよ、みたいなこと思いましたもん。


 で、その後ですね、テレビで近江牛とか見たんですけど(リモコンで参加したら当たります、的な)、しばらくこの手の肉は良いね、って旦那と。何でしょうね、我々は高級牛を食べたんだ、という心の余裕みたいなのが生まれたわけですよね。


 心の余裕っていうか……単に胃がもたれてるってだけなんですけどね。


 やっぱり我々は地に足のついた牛肉で良いかな、って。

 外国産のでも、ふつーに美味しいですよ、ええ。

 

 だけどね、うん、その翌日はあっさりと和食にしましたから。大根とか炊きましたから。

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