第275話 馴染みがないと思ったら

 北海道を出て東北に住み、早15年くらいですか。


 もうだいぶ東北人みたいな顔して仕事をしてるんですけども、やはり津軽海峡はなんていうんですかね、内地との境目なんですよ。もうはっきりとね、線が引かれてしまっているわけです。


 

 柿ですよ。


 職場でですね、


「今年も柿をさわす時期が来たわ~」


 ……サワス?


 これも方言なんだろうかと首を傾げておりますと、


「宇部さん、『サワス』ってわからない?」

「全然わかりません」

「柿の渋を抜くことよ」

「方言ですか?」

「ううん、全然標準語」

「うっそ」


 どうやらそのパートさん、ご自宅の庭に柿が植えられていたりして、それを収穫して干し柿作ったりするらしいんですよ。宇部さんトコ干し柿作らないの? って聞かれたりしたんですけど、私、そういや干し柿って自宅で作れるものだと思ってなかったな、って。そういう干し柿農家さんみたいなのが作ってるものだとばかり。さわすなんて言葉、これまでの人生で一度も使ったことがありません。


 で、そもそもの話として、どうやら北海道には柿がないようで。

 いや、函館くらい温かかったらあるのかな? とにかく私の実家は函館みたいに暖かいところではないので、柿なんて生えてませんでした。だから余計に干し柿というのは買うものであって、素人が作るものではないというイメージだったのかもしれません。


 これと同じような話になるわけですが、皆さん、金木犀の香りってわかります?

 私、わからないんですよ。嗅いだことなくて。


 花そのものも正直見たことがなかったですし、とりあえず、「何かとにかく良い匂いがするらしい」という認識でした。

 私が中~高校生くらいのころですかね、その頃は香水のブームだったというか、ウルトラマリンとかサムライウーマンとかクリニークのハッピーとか、めちゃくちゃ流行ってたんですよ。

 でも、最近って何かこう香水がどうこうってよりかは、なんていうんですか、ボタニカルがどうだとかそんな感じじゃないですか。そういうナチュラルとか、無添加とか、そういう自然派な感じといいますかね。そこで金木犀をまた思い出したんですね。そういやめっちゃ良い匂いのお花らしいな、って。


 ちょっと前に読んだ漫画で、子どもが産まれたら自宅の庭に木を植えるみたいな話をしていて、苗木を買ってくる――みたいな件があったんですけど、金木犀じゃなくて銀木犀にしてしまったからあんまり良い匂いがしない、っていうので、あ、金木犀っていうのは木だったのか、って知ったりもして。それくらい馴染みがなかったんです。私って女の癖に草花のこと全然知らねぇな、って思ったりして。


 で、時は流れて現在、近所のホームセンターでですね、発見したんです『金木犀の香り』。車用の芳香剤でした。


 何せ情報が0ですからね、街角でふわりと香ってもそれが金木犀だなんてわからないわけですから。もしかしたら金木犀だと知らなかっただけで、全然知ってる香りの可能性もあるわけです。なぁんだ、これのことかぁ、って。


 そう思って、テスターを嗅いでみたんですけど。


 もう全然知らねぇやつ。

 所詮は人工的に作られた香りですし、何かスポンジ的なものに沁み込ませてる系のテスターだったんで、香りも変化しまくってるかもしれないんですけど、とにかく、嗅ぎ覚えのない香り。ただ悪い香りではない。良い匂いではある。


 何でこんなに馴染みがないんだろうって思ってたら、やっぱり金木犀も北海道にはないみたいでした。マジかよ。


 逆に北海道にしかないやつってないのか。雪虫か。雪虫だけかよちくしょう。


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