第274話 くしゃみの変遷

 先日自分史上最高に可愛らしいくしゃみが出たんですよ。

 一瞬の出来事ですからね、どんな感じだったのかはもう忘却の彼方なんですが、もうとにかく、「いまのくしゃみ乙女だったじゃん」みたいな。もうしばし余韻に浸りましたよね。乙女な自分に。乙女なくしゃみを無意識に出した自分に。



 さて、このくしゃみなんですけど、私の場合、結構変遷の歴史があります。どうでしょう、皆さんも実はあるんじゃないかしら? 特に、子育て経験のある方は、などと勝手に思っていますが。



【第1期 何も考えずにところかまわずぶっ放す →ぶしゅんっ!】


 幼児~小学生の頃です。

 唾液や菌が飛ぶとかそんなことをまるで知らなかった頃は、手を当てたりなんてこともちょいちょい忘れてぶっ放してました。

 何かこう、爆発したような音だったと思います。

 娘がいままさにこんな感じです。

 これ絶対鼻水も飛び出しただろ? って思ってティッシュを持って駆け付けるんですけど、案外出ていなくてびっくりします。



【第2期 色気づき、周りの目を気にし始める →へっくしょん!】


 周りの目を気にしても『へっくしょん!』くらいの爆発力は有していた中学~高校生の頃です。若さがくしゃみにもみなぎっています。

 この頃になりますと、そりゃあもう常におててはスタンバイOK。鼻水だろうと何だろうとどっからでも飛び出してきやがれ状態です。ちなみに鼻以外の部分から鼻水は出ません。ただ、本当に鼻水が大量に飛び出してきて、そのままトイレに駆け込むこともありました。



【第3期 我は静寂を愛する →へしっ】


 大学生となり、授業環境も変わりました。

 教室内の人数もこれまでの倍だったり、机がひとりに一つタイプではなく、長テーブル型とでもいうんでしょうかね、あっ、ここまで私の陣地です、みたいな主張が重要になる感じだったりして。そうなりますと、スーパー人見知りの私は、友人がいない授業だったりすると、もう隣人に気を遣いまくりなわけです。へっくしょんとか出来ません。それに、無駄にやる気を出しちゃって最前列とかに座ってるもんですから、下手したら教授のマイクに拾われる可能性もあるわけです。

 そこで無理やり編み出したのが、とにかくもう腹筋やら何やらを総動員して音を抑える方法。『へしっ』というマナーモードタイプのくしゃみの開発に成功したのですが、上には上がいて、私のような後天的なマナーモードではなく、『しっしっ』っていうくしゃみが標準装備タイプの強者がいました。



【第4期 もう何も怖くないし恥ずかしくもない。だってくしゃみって自然なものじゃない? →えっきしょいっ!】


 社会人ともなりますと、何かもうどうでもよくなりまして、『へしっ』を解除しました。手を当てる、という基本的なマナーはもちろん守りますけど、映画館とかそういうところ以外ではもう『えっきしょいっ!』です。高確率で『えっきしょいっ! ……っらあぁ!』みたいなオプションもつきます。



【第5期 この子の眠りを妨げるものは誰だ! あっ、私じゃん! →ン”ッ!】


 自分史上最もくしゃみに気を遣ったのが産後です。

 添い寝をしている時ですね。

 赤ん坊というのはとにかく敏感でして、抱っこで寝かせても、そのまま布団に下ろせば背中のスイッチが作動してスリープ状態が解除される生き物なのです。しかし、産後の弱った体に3~4キロの赤子を抱き続けるのって結構辛いんですよ。

 そこで編み出されるのが添い乳。要は、寝ながら授乳して、そのまま寝かせるという荒業で、一見楽なように見えるかもしれませんが、それは乳からチューブが伸びてるなどしてある程度自由に体勢を変えられる人限定で、恐らくそんな人間はいないでしょうから、かなり無理のある姿勢のままビーチクを容赦なく引っ張られる痛みに耐えつつ、我が子が寝落ちするのを待つわけです。


 そういう時に限って出るんですよ、くしゃみの野郎は!


 ですがこんな至近距離であんな爆発音聞かせられませんって。

 もう全身のありとあらゆるところに力を入れ、お口も閉じて音を封じます。結果、『ン”ッ!』みたいな、逆に「何が起こった?!」って感じのくしゃみになるわけです。


 ちなみにこのくしゃみで子どもが起きたことはありません。

 けれど、私がそーっと隣から消えると起きます。恐らく人感センサー搭載型なんでしょう。


 

 ちなみに、そんなこんなで移り変わっていった私のくしゃみですが、いまは4期に戻っています。もうおばちゃんになると大抵のことは恥ずかしくないものです。


 いや、げっぷとかおならは無理ですけど。


 

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