第133話 気づく男

 私ね、白髪が多いタイプなんです。昔っから。つまり若白髪というやつでして。白髪が多いと禿げないって言いますけど、本当なのかな。


 ただ、髪の量がもともととんでもないんでね、少しくらいは減っていただいても、ええ、ほんとに。

 でも白髪は困るんですよ。老けて見えちゃうからね? なのでまぁもちろん定期的に染めてるわけです。


 さてこのバリカタハリガネでお馴染みのマイヘアーですが、色も真っ黒でして。何でしょうね、アニメとかだったら黒髪のストレートって清楚とかそんな感じでツンデレ生徒会長になれたりするじゃないですか。


 だけどね、これが現実世界となりますと、まぁーままならない。ままならないにも程があるんですよ。だいたい貞子ルートになりますから。

 でもね、貞子ったってあなた、あの子まだ毛量少ない方でしょうよ。それにどことなく柔らかそうだし。


 こちとら鬼太郎の髪の毛針を地でいく硬さなんですわ。凶器になるからね? ガチで刺さっから!


 私もね、そりゃあ若い頃は色気付きましたわ。色んな色に染めたりね? パーマネントあてたりしました。あんまりやり過ぎたら髪が痛んで細くなるよって言われましてね、おうそうかい、むしろ望むところだそれは、なんて思ったりして。なのに。


 ならねぇの、全然。

 結局バリカタのハリガネなの。超健康優良毛かよ。ここまできたらむしろあっぱれ。

 たぶん私の髪ってドラゴンボールの世界だったら悟空クラスだと思う。主役をはれる剛毛さ。


 でね、まぁ社会人になりますと、そこそこに節度を持ったカラーリングにしなくちゃねってことと、あと、ぶっちゃけこまめに染めたりするのが面倒になってきて、地毛と同じ色にしてるんです。あとまぁ、普通に悟ったっていうかね、私、茶髪とか似合わねぇなって。いっそエキゾチックジャパン。


 つまり黒。中二風に言うと漆黒の闇。ダークマターとか、そんなカラーリング。


 白髪が多いっていってもまぁ30代にしては多いよね、ってレベルなので、99.9%くらいは黒髪なわけです。

 美容院に行ったといっても、チラチラキラキラしてた白髪がなくなって、毛量が減ったかな? ってくらいの変化しかない私なのです。


 が。


 ところがですよ。


 美容室に行き、その数時間後に息子を学校にお迎えに行ったんですが。

 数メートル先の下駄箱でクラスメイトにもみくちゃにされながら靴を履き替えている息子がですね、何やら不思議そうな顔でこっちを見ているんです。いつもだったら、にっこにこしながら手を振ってくれる息子がですよ。何か怪訝そうな顔してるんです。


 確かにその日は結構な雨だったのでお迎えの人が多かったし、大人が多くてびっくりしたのかな? なんて考えてたわけなんですが。


「もう、ママいないかと思ったよ僕!」


 ちょっとぷりぷりしてるんです。


「いつもと色の感じがちがったでしょ! わかんなかったんだから!」


 ってね。


 まぁ確かに、その日は美容室に行くってことで多少こじゃれた感じの服装だったんです。とはいえ、『色の感じ』と言われると全然いつもの色の感じなわけですよ。黒とネイビーみたいな。


「いやいや、ママいつもこんな感じの色じゃん」


 反論しましたわ。

 全身赤い服だっていうならまだしも、むしろ毎日こんな色でしょうよって。おはようからお休みまでこんな色でしょうよって。


 そしたらね、皆さん。

 もうおわかりですよね?


「ちがうよ! 頭の色がちがったもん!」


 むしろ違わねぇよ!


 黒から黒に染めたんだよ!

 確かに白髪は多いけど、そこまで色が変わったって思うほど多かねぇわ!


 心の中ではかなり強めに突っ込み入れましたよね。


 でもね、よくよく考えたらですよ。


 私、息子に今日髪染めてくるとか言ってないんですよ。

 美容室って単語すら出してないの。

 えっ、何、怖い。


 何が見えてるの?

 私の頭に何かいたの!?


 それとも……、


 これがモテる男、ってこと……?

 だとしてももうちょっと言い方!


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