第19話 過去形にしがち
おばんです、宇部です。
おばんです、って『こんばんは』って意味なんですよ。
これ方言なんですね。てっきりこんばんはの丁寧語かと思ってたんですけどね。『お』がついてるし『です』で締めてるから。ね? ちょっと丁寧語っぽくないですか?
これ、北海道の方言かと思ってたんですけど、そういうわけでもないみたいで、東北でもおばんですって言うんですよ。住んでみてわかる、北海道と東北の方言って結構似てるんです。
物を捨てることを『投げる』って言うし、
どうしたの、っていうのを『なした?』って言う。
だからちょっと何でも通じるのかなって油断してると痛い目に合うわけです。
「こればくったんだ(交換したんだ)」
と言うと、ぱくる、と似てるため、盗んだの? とか、無理やり奪ったの? 的な勘違いをされたりしちゃったりね。
で。
ですねぇ。
何か方言をちょろっと調べていたらですね、おや? と思うところがあったんですよ。もうかれこれ10年以上北海道と離れてますから、そういえば昔はこんなことしゃべってたなぁってしみじみ思ったわけです。それは。
何か過去形でしゃべる、ってやつ。
もちろん全部が全部過去形でしゃべるわけじゃないんですけど。
例えばさっきの『おばんです』なんかだと。
夕方に電話かけたりするとですね、
「もしもし~、おばんでしたぁ、宇部でした~」
ってなる。
おばんです、が、おばんでした、に。
ついでに、
宇部です、も、宇部でした、になる。
しかもこれ、最初の挨拶ですから。しょっぱなからもう過去。
もしかして私の文章もおかしなタイミングで過去形になってないかなってちょっと心配になるわけです。
いや、心配になるところってそれだけじゃないっていうか……。まぁ良いけど。
でも確かにそういう部分もあるのでした。
っていう感じで。
そういえば数年前。
こっち(東北)に来てホームセンターに買い物に行って、店内放送が流れたわけです。
ピンポンパンポーン
『いらっしゃいませ、本日は○○にご来店いただきまして誠にありがとうございます。お客様のお呼び出しを申し上げます』
内容はお車の移動だったか、合鍵が出来たのか、それとも迷子のお知らせだったのかそれは忘れたけど、とにかくその店内放送をしている男の人は最後にこう言ったのです。
『本日は○○にご来店くださいまして、誠にありがとうございました』と。
するとですね、近くにいた店員さん達が笑ったんですね。パートのおばちゃんみたいな感じの2人でした。
おお、何だ何だと思って、すすす、と近付いてみたわけです。商品探してるふりして、自然に。あくまでも商品を探している体で。
「いま過去形になってたよね」
「ねー」
なんてことはない、最後の『ありがとうございました』に対する突っ込みだったのです。
え? これおかしいの?
別に、『ありがとうございました』って言ったからって、これで閉店するとか、そういうのでもないでしょ?
もしかしたら噛んじゃっただけかもだけど、でも、私は別におかしいと思わないんだけどなぁ。過去形に慣れ親しみ過ぎたのだろうか。
いまでも何がどうおかしいのかちょっとわからない私です。
そんなことより、私がいま一番恐れているのは、探偵の前で迂闊に過去形を使ってしまうこと。あいつらそんなちょっとした言い間違いも聞き逃さないから。
「おや、どうしていま『~でした』と言ったんですか? 私はまだ○○さんが亡くなったとは言っていないのですよ?」
とか言ってくるんだ、探偵っつー生き物は!
そんなトコいちいちいちいち突っ込んでたら話進まないから!
とりあえず、下手な容疑をかけられないように、探偵からは遠ざかって生きていこうと思います。
以上、宇部でした。
この使い方なら大丈夫。
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