第394話別れ

 ぶっ飛んだぼうずにであった。ぼうずの同僚には今まで数人会ってきたが全員大した事ない奴等だった。俺を殺せる位の奴は誰一人としていない。己に掛かった支配の攻略もできない、英雄と肩を並べ切磋琢磨した武人としてこれほど情け無い事はない。


 そんな時だ、全てを吹き飛ばしながら俺の前に現れた。凄まじい寵愛、いや親愛とかそういう雰囲気を携えてだ。


 ようやく本物が来た、死に時だ。そう思い俺はできるだけあのクズの情報を少しでも渡し、可能なら名も知らぬ異境の女の助命を願うとしよう。



「まぁ、攻撃しようとした訳じゃねぇよ、安心しな。上手くいけば殺しあう必要がなくなる。面倒はない方がいいだろ?」



 そんな言葉と共に何年も苛まれた俺を支配していた物は四散した。これ以上無い程にあっさりと、まるで埃でも払うかのように。少しばかり自信がなくなりそうだ。



 解放された以上ぼうずは俺の恩人だ、例え制限時間付きでもな。



「兄さん、頼みがあるんだが、いいか?」


 ここまで世話になったんだついでにもう一つ頼むとするか。礼は絶対に返すと誓いを己にしながら。


 ぼうずはこちらが言うまでも無く了承してくれた。ならばと俺は1日貰い主に別れを告げる為に嬉々として走った。




 こんなにも俺は早く走れたのか、景色が吹き飛ぶようだ。今なら師一番のお気に入りのアイツにだって勝てる気がする。鯨の骨のあの朱槍俺も持ってみたかったな。


 

 気分が良いおかげで懐かしい記憶まで蘇って来やがる。もう街についた。



 そのままの速度で人をかわしながら主の家に向かう。ドアを開けるのがこんなに楽しいとは思わなかった。



 そんな気分も主の部屋のドアを開けたら一気に萎えた。むせ返る特有の臭いにケダモノと人形のように受け入れるだけの虚ろな女。



「よう従僕、お前もその自慢の槍を使いたくなったのか?」



「そんな所だ」


 嘘はいってねぇ。お前が想定した槍じゃなく相手もお前の想定した者じゃないがな。



「何度も誘ったのに断ってたのは我慢してんだな。コイツ、反応がなくて面白くねぇから二人で責めれば面白そうだと思ってたんだ」



 聞くに堪えない、背をこちらに向けながら腰を振るクズの心臓に一刺し、信じられない物を見るような目で逝きやがった。最後の最後まで不愉快な奴だったな。


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