第387話本質

「はい、ダメ~」


 額を突かれる感覚と同時に術式が完全に無に帰す。目の前にはあの女、監視されていたか全く気付かなかった。


「監視はしてないけどね、君が自身に危害を加えようとすると私に伝わるようになってるよ。理由が可愛くて許しちゃいたいけどそれはダ~メ」


 思考が読まれてるのは今更だが、一定の思考に反応して俺の思考を読む。厄介すぎる。


「自分を強化しようとしただけだが何か問題が?」


「やったところで無駄だから止めに来たってのもあるんだよね。そこまで思いつめた挙句の果てに意味無いって悲しいもの」



 意味が無い? そこまでして届かないのか。


「性愛の対象じゃなくなる可能性はあるかもね。でもそれだけ、君じゃ絶対に無理」


「絶対と言われると俄然やる気が出るね」


 精一杯の強がりだが思考が読まれてるとなるとさぞ滑稽なんだろうな。


「まさか、そんな事は思わないよ? 意地らしくて可愛いと思う。それでも無理な物は無理ね、この世界の者として全部じゃ無いにしても生まれ変わったのだから」


「どう言う事だ」


 隠すだけ無駄なら聞いたほうがマシだ。


「嫌う方法が君には出来ないからだよ」


「俺はアンタが嫌いだ」


「嘘を言うだけ無駄だよ。嫌う方法だけど、森羅万象全てを心のそこから嫌えれば可能でしょうね。君には無理でしょ? あの島の子達を嫌うなんて。自分の命に感じ無くなって、意味を他に求めた哀れなぼうや」


「なんの事やら」


 意味がわからん。


「深層心理なんて自分でも気付けないわよね? この世界に来た君は生きる事を目指した。そして、その道中でこのままでは人間に蹂躙されるしか未来の無い妖精や精霊に出会う。そしてその構図が気に入らないから助けた」



 過去まで全部見られてる訳ね。流石に嫌悪の感情が少しばかり湧いてきたぞ。


「君じゃなきゃ出来ない芸当よ。それができるのは君の魂が別世界から来たからこそよね。純粋なこの世界の者じゃ出来ないからね。話を戻すけど、君はその時はその博愛というよりも怒りで助けた訳よね。でも今は違う、心のそこからあの子達を守りたい。理由は自身が次第に力を付け、具体的には君の言う所の思考が上がってこう感じたんでしょ?」


「黙れ」


「二度目の偽者のような命になんの価値があるって。普通はそうは思わないでしょうけど、行き過ぎた力に器が耐えられず思考が変容しだした。そこで見つけたのがあの子達に自分の命を使う事で意味を見出す事。その言い訳と本来持ってた強力な自我があってようやく君は精神的に生きていられる」


「うるさい」



「そこで提案です。無駄な力は捨ててあの島で平穏に過ごしませんか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る