第380話原初の個

「やめてよ、私が虐めてるみたいじゃない」


 不本意だと言わんばかりに抗議の声をあげる。


「そもそも、別に欲しいものもないし、あの島をどうこうするつもりはないわ。でも色々くれるのであればちょっと要求しようかな」


 敗者は従うのみか、悔しいな。


「実現可能な限り従おう」


「まずはあの島にお家を頂戴。私あそこに住むから、その位問題ないよね?」


「あの島が平穏であるなら望むままに作りましょう」


 最悪だが抗う力が無い。


「うんうん、これは迷惑料みたいなものだから次は本題。あの魔術阻害の空間は何かを再現したものだと思うんだけど、何を再現した物かそれとそれを教えた術者は他にいるか教えて欲しいな」


 これは質問ではなく、確認か。だから意味がなかったのか?


「前提として聞くが、神のルーツをしっているのか?」


「人の、いいえ、支配を妄想に求めた知ある生物の長居と言う奇跡。妄想の具現だね」


「その奇跡が起こる前を再現したのがあの魔術だ」


「素晴しい再現度だったよ? 凄く懐かしい気分だったもん」


「懐かしい?」


「おかしいと思わなかったの? あの中で当たり前に立って、異能を使う存在だよ。魔術すらない空間の中でさ」


「アンタは何者なんだ?」


 理解できない。似た魔術を経験しただけにしては理解が深すぎる。一番に思いついた可能性は正直当たって欲しくない。


「人の世の前から原初の個。奇跡の結果因果すら逆転した世界で己だけそれを拒否した異なる理に生きる者って所かしらね」


 最悪の答えだ。これは神を味方につけてもダメな奴じゃないか? どちらにしろ従う他なさそうだ。


「教えた術者はこの世界には存在しない。知識も俺以外で知ってる者は知らない」


「そっか。だったらいいや。最後にあの妖精さん達が食べてたの私にも頂戴」


 最後は一番どうでもいい要求だな


「俺が供給できる限り一定の量は約束しよう」


「絶対だよ? これは絶対だからね?」


 あれ? 急に残念な奴特有の空気が? こんなのに手も足も出なかったのか? やばい泣きたくなって来た。 


「君はくだらないと思うかもしれないけど悠久を生きる者にとっては大事な事なんだよ? 例えそれが小さい事でもね。神だって君達に求めたのは変革じゃなかったのかな?」


 そういえばそうだったな? まぁ真逆を行ってる俺が何故支援を受けたかは謎だが。


「そうだった気がするな」


「そうそうそういう話し方のほうが君には合ってるよ。私はお客様待遇であの島に住むから存分に持て成してくださいね」


 敗者への待遇としては破格も良い所ではあるが頭が痛い事案が一つ増えた事には違いない。




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