第379話禁術
俺は転移符を取り出し滝、教国跡、ドワーフの島を経由して巨壁の国に転移した。そこから一時間程最高速度で移動して人気の無い場所にやって来た。これでも不十分かもしれないがあのバケモノから時間を稼ぐ必要がある。
光景は頭にある。覚悟も十分、リスクも大した事では無い。少しばかり魂の形が彼に近づいて、俺以外から俺が消えるだけだ。
まずは陣を張る、この陣は円で囲わない。少し楽譜を思わせる物ではあるが上下左右前後に魔力で描いていく。その次に鏡だ、線の終わりとその反射先を補う様に設置していく。俺を覆う様にだ、最終的に様々に広がる陣の線は鏡で繫がり終わりが見えない奇怪な陣となる。
後は俺自身をこの場所に固定して魂を出してやる。本来であればこんな工程はいらないのだが音域が足らないから仕方ない。更に万全を期すならば演奏も欲しい所だがない物ねだりしてもしょうがない。今回は対象は一個体何とかなるだろう。
さぁ歌おうか。
「赦さないって言ったよね?」
聞こえたと同時に鏡は砕かれ、陣はかき消され。目の前に突如として現れたバケモノに魂の部分を掴れ強引に体に戻された。
もう笑うしかない、何も通じないまるで全知全能と対峙してる気分だ、これは彼にもう一度代わったとしても無理だ。
「これは本当に危なそうね封じましょう」
その言葉と同時に暖かい魔力が体に流れ込むのを感じた。抵抗しようにも一切体は動かないし、他の行動も取れない、思考だけがはっきりしていて俺に残された選択肢を直視するには十分すぎる時間だった。
「さて、これで良しと、これで体は動くでしょ?」
体が動く、魔力も問題ない?じゃあ何を。俺が困惑していると、それを見透かしたかのようにバケモノは続ける。
「あの鏡を使った魔術? いいえ儀式かしら? 私の許可無く使う事は不可能よ。例え私を殺せたとしてもね」
冷静に考えろ封印を施す手間を考えたら殺した方が早くないか? 俺に何かしらの利用価値があるとみて良いのだろうか? このバケモノが強大ゆえの不遜という線もある。それでも可能性があるなら泥水でもスするべきだ。
片膝を地に付け手も同様に付ける。
「命が欲しいならくれてやる、物も同様だ。俺の力で赦す全てをくれてやる。だからあの島の平穏だけは」
こんなの賭けでもなんでもない、ただの命乞いに等しい醜い何かだ、利用され奪われ蹂躙される可能性が大半な愚かな行動だ。それでもしないよりは良い。更に深く頭を下げ。
「どうかお願いします」
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