第358話召喚

 まあ、分かってはいたが大地の精霊はスムーズに挨拶を終わらせた。残りの話は爺に押し付けて俺はすぐに転移符を起動する。



 方針が頭の中で固まってさえしまえばあとは楽だ。ドワーフには悪いが今回は根こそぎ頂いていく。転移先はショルの家、そこから出て何事も無いように連中のねぐらにプレゼントを仕掛けて街の外へ向かう。ねぐらから数百メートル離れた所で凄まじい音による衝撃が駆け抜ける。後ろを見ると黒い煙が見える。



 な~に元の世界でも場所によっては天気の挨拶みたいなもんだ。パキリとどこかで音がしたような気がしたが、これもまたよくある挨拶のようなもんだ。そのまま外へ出て、街その物を陣で囲んでいく。山一つを対象に使う術式だ、この程度なんとも無い。



 ある程度事前に聞いていた場所も含め各所に陣を仕込んで行く。すっかり日も落ち夜闇と自然に満ちた音のみがする。陣を一斉に起動。何一つ不備も無く、邪魔も無い。



 明日日が昇りこの島の住民は阿鼻叫喚するだろう、ご愁傷様だ。



 この島には最早用は無い。早々に立ち去るとしよう。転移符を起動した。その時何かに引っ張られる、術式が破損していくのが目に見えて分かるくらいな強引な何かだ。



 引き込まれるのは最早どうしようもない。ならばせめて自身への隠蔽と武器を懐に忍ばせる。後は出たとこ勝負だ。









 転移した先は絢爛と言う事を体言したような広間。だが、この作りは覚えがある、御偉いさんが偉そうにふんぞり返る場所だ。



 証拠に偉そうな恰幅の良い男がふんぞり返り、その横に小賢しこそうな初老の男。その他もろもろテンプレと言った面子だ。



 護衛の兵士と一人の娘を除けば欲と悪意に満ち満ちた視線をこちらに向けている。こう言う視線は慣れすぎて良くわかる。これでこの後の展開までテンプレだったらどうしてくれようか? もしそうだったら三流ラノベ所かチラシの裏の落書きにも劣る。




 事実と言うのは虚しい物で次にこの娘が。多分姫かなにかだろう、の台詞で内心心底嫌になったなぜなら。



「勇者様私達をお救い下さい」




 これだ。だが、資源集めの為に今は合わせてやる方がスマートに事が進みそうだ。恥を捨てろ、俳優や声優はどんなにくだらない役でもこなすんだ。俺はその真似事をするんだ。



「俺が勇者? それよりここは何処なんだ?」



 我ながら微妙な出来だ。周りの反応を見る限りはとりあえず合格らしい。



 説明を聞いて見るとコレまた使い古されて最早見向きもされないようなネタだ。俺はどうやら神が選定した勇者で姫巫女である目の前の娘が召喚したらしい。



 魔王がいるらしく使命を果たせば元の世界に帰れるようだ。そんな事今は神でも出来ないんだけどねぇ。そんなことより俺の目先には箱があり、そこには指輪が入っている。鑑定をかけると隷属の指輪、本当にくだらない。せめてもの救いは俺である事だろうな、他者ならほぼ詰んでいる。




 空間庫から似た見た目の素材を取り出し、目の前の指輪のイミテーションを作成していく。この後の展開は勇者の証をつけてくださいと渡される流れだ。当然受け取ってすぐ空間庫に仕舞いイミテーションを指に嵌める。




 王の歪んだ顔を見て滑稽だなと思う他無かった。

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