第348話潮時
案内された場所には既に料理が並んでいる。見るからに豪華だ。ついでに赤で目立つ女が今回の取引先であり、部屋を貸してくれている人間でもある。
「あら商人さん、お爺様と一緒だったのね」
後ろを振り向くとあの老人にこやかにこちらを見ている。ようするにこの老人がこの家の当主か?
「御当主様だったのか。これは人が悪い、気付けぬ俺も節穴だったという事だろうが」
「いえいえ、私は相談役。ずっと昔に当主は息子に譲りましたとも。息子は城の強欲共の抑えで手が回らず実務はほぼ孫娘が担ってますよ」
老人が話しながら席を引いて座る様に促す。これは使用人の作業だろう? ホレ、傲慢そうな孫娘も混乱具合が顔にでているぞ? 俺はとりあえず座らせてもらうと、老人は女の隣の席へ。使用人達はテキパキと仕事をこなす。
「相談役自らのもてなし、感謝する」
ここまでしておいて何もなしなぞありえない。絶対になにかしらあるはずだ。
食事自体は良い物だった。雑談も特に不穏な物はなく、穏やかに終わった。
娘の方は早々に離席してこの場には俺と老人と使用人が一人。
この後の老人の言葉はなにか確信めいたものがあった。
「商人殿知っていればこの情報を売って欲しい。魔族の国にとってこの国は価値が無いのではないだろうか?」
「別にただでいい。部屋を借りた礼だ。かの国には豊穣の女神がついた。だから正解はもうすぐ無くなるだ」
「想定を遥かに上回る事態ですな。最早潮ですな、戦争を終わらせるのも難しくなったか」
「終わらせる算段があったと?」
「利で説得できればと努力しましたが、どうやら難しいようですな。こちらが仕掛けていなければまだなんとかなったでしょうが」
「残念だが、痛い目を見て諦めるしかなさそうだな。向こうは攻める必要が無く守るだけで良い。こちらは海を渡り攻めなければならない。補給路に打撃が出るだけで簡単に瓦解するし、それを補う派兵となると莫大な物資が必要だ」
「現実的ではないですね。しかし」
「今の上ならやりかねない、だろ?」
「当然私共も巻き込まれるでしょう」
「猶予はまだある。自国の馬鹿を打倒するか逃げるかだろうな」
「そこで商人殿には仕事を依頼したい」
面倒な依頼だろうな。
「人数は?」
「何人までなら可能でしょう?」
あーあーこの国詰んだな。まともな思考の貴族に見限られた。
「報酬次第さ。物資だって必要であろう?」
「だからこそ、最大人数と運べる量をお聞きしたい」
「報酬次第で何処まででもと言ってるつもりだが? 別にこの屋敷丸ごとでも構わんぞ? この提案の時点で俺の移動方法に心当たりがある。違うか?」
じゃ無ければこんな無茶は言わないはず。
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