第333話宝石
目を覚ますとまず陣の術式を確認する。これに気付き対応する凄腕がいたら驚きではあるが。この術式の陣は俺に知らせる事のみを主とした作りだ。相手に気付かせず俺に知らせるそれだけの物だからこそ解呪と補足の難しい術式なのだが。
部屋を出てフロントに下りて鍵を受付に渡し早々に部屋を出た。セキュリティーは問題ないが感じの悪さが目に付く場所だった。俺が弱小商人にでも見えたのだろう。
そんな事は忘れるとして、隣には目的の売買組合がある、向かうとしよう。
ーーーーー
組合に入るとまた値踏みするような視線だ。俺自身の格好は問題ないはずなのだが、顔も商人としての変装用の道具で変えているから幾分か元より良い男のはずなんだがなぁ。
「組合へようこそ、なにかお求めに?それともお売り頂けるのでしょうか?」
宿よりは幾分かましか。美人の受付嬢ではあるがなにか奢りというか、傲慢さのような物を感じる。
「ここで一番良い宝石を見せて頂きたい。相応の物であれば買おう。当然金はあるし、売る物もある」
受付嬢は目を細めこちらを見て一呼吸置いて。
「畏まりました。組合長を呼んでまいりますので、席でお待ち下さい」
少しばかり待つと初老の男が出てきた。こいつも同じような視線を俺に向ける。ここまでくると俺の格好が問題なのだろうか?
「お初にお目にかかります。組合長のノーリッドと申します」
「丁寧な挨拶に感謝する。俺は商人、名は仕事が終わるまで一族に預ける掟なので今は商人以外の名は持たない」
即興の嘘だ。ぼっちの俺に家族なんて要るわけが無い。
「ほほう、随分変わった掟ですな」
「扱うものが扱うものなので仕方ない。それより一番良い宝石がみたいのだが?」
商会長が黒い箱を机に置きそれを開ける。中には4センチ程の楕円形ルビーだ。正直あんまり綺麗とは思わない。カットがよろしくないからだ。でかいだけでは意味はない。
「如何ですかな?これだけの物中々お目にはかかれますまい」
「良い物だ。これでいくらだ」
「金貨で700枚ですな」
これで700ね吹っかけたんだろうが。自分の首を絞めたぞ?
「話にならんな。大きさこそそれなりだが、色も美しく見せる気概も感じない。失礼を承知で言うが本当の高価な宝石を商会長殿を知っておいでか?」
「申し訳ないですが、これ以上の物は存じ上げません。良ければこの老い先短い老躯に御教示いただけませんかね」
言葉こそ丁寧だが、怒りを隠せていない。普通はそうだよな、俺失礼だからな。だが、その方が都合が良い。
「本当なら良き宝石を買うのが主な目的だが。売るだけしとくか。これがその宝石だ。その宝石の半分の大きさであってもそれより価値がある物だ」
取り出したのはオーバルブリリアンカットを施したルビーだ。同じ楕円形だし分かりやすいだろう。
「これが」
机に置いたそれと自身が見せたそれを見比べ沈黙した。
「分かって貰えたみたいだな。物を見る目があるのは僥倖だ」
「ええ、痛い程差が分かりますとも。これほどの物見たことがありません。これを売ってくださると?」
「当然だとも。商人はそう言う物だろ?より高く売れそうな場所へ荷を運び売り別の荷を買い、次へ進む」
「そうですとも、商人とはそうある物です。そして我らはそれを円滑に進める為にあるのです」
さぁここからだ。
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