第331話商売は順調

全ては順調。敵対種族だというのにこのマントを着けてるお陰で思った以上に人々は好意的だ。




 今にもくたばりそうなガキや年寄りに一つパンを差し出すだけで呼び込みまでやってくれる。この国での食料の価値を考えれば仕方のない事だろう。




 餓え過ぎて襲ってくる者もいたが住民が暴漢を押さえ込む、善性というよりこのマントの加護のような物だろう。あの巨躯の男がどれだけ民に慕われているかが見える気がした。



 色々な人に同じ質問をされる。



「何故貴方は人の身で食料を売るのですか」



 だから俺は同じ事を何度も言う。お前等の敵国の人間ではないから売れる方に売る。それが商人だろうと。



 これだけ見ると慈善事業でもやってるように見えるが、利益は凄まじい。巨壁に食料を売るよりも儲けている。それだけこの国では鉱物の出土量が多いと言う事だ。俺が儲けたつもりでも多分この国での鉱物の価値は全体的に低い。互いに良い条件である。



 ついでと言わんばかりに水も売る。これはその町や村の代表者との商談になるが、これまた思った以上の金額を出してくれた。



 屋敷同様井戸を満たして次へ。そうして6つの村や町を回ったが流石に食料が尽きた。であれば次に行うのは商材の確保だろう。隠蔽を行い転移符を設置して次へ進むとしよう。この国とはしばし離れる事になるだろう。



 次の目的意は人間の国だ。目的地






ーーーーー










 サランの屋敷に騎馬の集団が迫る。警戒する兵士だったが、先頭の人物の顔を見て跪き頭を垂れる。


兵の前に騎馬を進めると。




「貴殿の主に確認したい事がある。通してもらえるか?」




「直ちに。僭越ながら案内させて頂きます。王よ」




 巨躯の男はエントランスで待ち受けていた。



「王よ、久しいではないか」




「相変わらずだなサランの当主よ。いつもの茶番に付き合いたいのは山々ではあるが今日はそういう訳にもいかん」




「人間の商人の事であろう?」





「太陽を背負いし人間の聖人が死に掛けたものには施しを。金を持つ物には商売を、枯れた井戸を満たし、通る場所から町が、村が生き返るとまで民草に言われている。こいつは何者だ。太陽を背負う貴様なら答えを知るはずだ」




「なに、マントを一枚くれてやっただけの事。アレは敵国の民ではない、果てしない海の先の民よ。そしてまごうなき商人だ。もしかすれば何か悪事を働くやもしれん。しかしだ、民を餓えから救う手立てを持ちそれを商人としてやる気がある男だ。今現在無力で召し上げる事しか出来ない我々よりは良い」





「私とてそう思うさ。だからこそ国としてその商人から買い付けたいのだ。そうすれば配給にだってまわせるし、これ以上食料の召し上げなんて愚行をしなくて済むのだ」




「居場所は知らん。しかし、月を背負う守護の領地へ向かえばいずれ会えるだろう。真っ直ぐ西へ向かってるはずだ。まぁそれは王も分かってると思うがな」




「やはりか、すぐ向かうとしよう」




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