第329話成立

 目の前の巨躯の男は俺の前に金貨をこれでもかと言わんばかりに並べてこう言い放った。



「さて、商人殿この程度ではそちらの商品のほんの一部しか買えぬであろうが買えるだけ買わせてはくれぬか」



 圧がある。が、同時に悪戯を仕掛けてどう返してくる反応を楽しみにしている悪ガキのような雰囲気も感じる。それなら期待に応えるとしよう。



「これほどの量だと些かこの部屋では手狭ではないか?先ほどのエントランスで渡す。それで構わないかな?」



「そうさな、これっぽっちの金貨でもここでは手狭だな。分かった、移動するとしよう。二度手間をすまぬな」




 嬉しそうに言いやがって。食料を確保したいのは間違いないだろうから当然か。はったりであった場合どうしてくれようかと考えていそうでもあるがな。





ーーー







 先ほど囲まれた場所に戻ってくると空間庫から袋を経由して次々と食料を出していく。麦や野菜、加工した肉や魚。香辛料等々をこちらの相場の3倍でざっと計算して出していく。





 その光景をただただ棒立ちで見守る兵士達と悪戯が失敗したであろうに嬉しそうな大男が印象的だった。




「この程度が安く見積もってもあの程度の金貨では限界ですな。まだ余剰の資金があれば更に売るが?」




「ガハハハ。良い、良いぞ。して」


 その言葉とともに空気が凍てつき、魔力の圧で独特の威圧感の様な物に支配される。



「商人よ、貴様は人間であろう。何故我ら魔族に益のある取引を持ち込む?」




「金を出し、俺から物を買えば種族なんざ関係ないね。安い所から荷を買い付け高いところへ運び売る。それが商人だ。この近くにいる人間が滅ぼうが知った事ではない」




「その言葉に嘘偽りは無いと申すか?」




「自分が守りたい人間でもいれば多少は考えるが、あった事もない連中の事なんざ知らんな」



 圧が、凍てついていた空気が弛緩して元に戻った。



「この屋敷にどう入ってきたか、なぞどうでも良い。全て不問にしよう。御客人、この国で存分に商い、存分に稼ぐが良い。人で商うのは問題が出るだろう。こちらから手助けもだそう」





 こうして巨躯の男との商談は続いていく。

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