第302話説教

 場所は見通しの良い草原、空には全身をさらけ出す月。人工的な明かりはほぼ皆無なのに明るいとすら感じる程だ。



 そんな場所に不釣合いな集団が二組。そのうち二人は一国の王である。自身の信頼のおける部下を引き連れ、今まで閉ざされた交友をどう取り戻すか話し合いが行われるのであろう。


 仲介の俺は引き合わせると仕事は終わったとばかりに話し合いには参加せず、少し離れた場所でルイを待つ事にした。








「やぁ待たせたかい?」



「待つ程時間は経ってはないぞ。そういうのは女性と待ち合わせた時にでも言うんだな」



「あちらが後に来るんだから言う事はないね」




「一つ聞いていいか?」ずっと気になっていた。今思い返せば会って間もない頃に一度だけだ。




「答えられる限りで良ければ」いつもの様に飄々と答える姿は最近では少し憎たらしい。




「アンタ何故一人称を使わない?今までずっと引っかかっていた。今の会話だって普通なら俺が先に来るから言う事は無いが自然だ」




「気づいてはいたんだね。ゲッシュ、ケルトではメジャーなそれだけど、ソレが一番近いかな。息子を除く一族は大体自分に制約を持たせる。使う頻度が高い、あるいは必要性が高い物程恩恵が大きい。基本小さく幼く見える一族だ。物理的には本来強くない。それを補うのさ」




「それを先に言ってくれればいいんじゃ・・・」ふと、かの英雄の死因を思い出す。



「その顔は理解したみたいだね。そういう事だよ。何事もただではないって事だね。さてこの話しはもういいだろう?君の計画書を是非みたい」



 俺は自身で書いたこの先の予定をルイに渡す。



「これは許可できない」



「何故だ?これ以上に効果的な打撃もないだろう?俺自身の保身にも繫がる」



「確かにその通りだね。でもね、これを例えやるとしても最終手段だよ。これを普通にやろうとする君は何処か壊れている。これはね、君の縁を結んだ者全てへの裏切りとも取れる」



「そんな事は」




「いいや、そうだ。君はこれを実行した後は精度を維持するために伝えない。だが例外が楽園にいける者、こればかりは隠しようが無い。だからこの紙切れを見せた、違うかい?」


「そうなのかもな」



「これはあくまでも最終手段にして欲しい。いいね?」



「・・・わかった」




「しっかしまぁよくもここまで徹底するよね君は。確かにあの宗教は世界中に散らばっている可能性は高いし、本拠地に戻ってくる可能性も高い。更に言うと最悪散らばった戦力が押し寄せる可能性、それを機にまたこの大陸内に復権しようとする残党。全部ありえる」



 でもねとため息を付きながら。



「自分を偽装とは言え殺す事はないだろう?英雄みたいに祭り上げられてからそのお手製の死体で死を偽装。それをあの宗教の連中のせいにする。君は安全を確保、その事実を知った人間は宗教への警戒と憎悪を宿す。でもね、一つ問題があるんだよ?」



「いや、裏切りと言われる以外はないだろう?」



「あるさ、君と付き合いがそれなりにあって、君の性格をある程度把握してればこれはばれるよ。証拠は無いけどその者達は君の死を信じない」



「何故だ?」



「君が必要無いのに目立とうとする訳がない。商人として多少目立つとかその範疇じゃないんだ。違和感が尋常じゃないだろうね。こう思うはずさ、次は何を企んでるんだろうとね」


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