第239話扇動

 宗教一つを潰すのに一番大切なこと。それは、悪いのは神ではなく組織まぁ結局は人間が悪いという風に信者に思わせる事だと思う。



 信仰その物の否定は回りに回って泥沼化すると俺は思っている。なのでこの方法を取った。俺が渡した食料だが、当然配られている。残念ながら全てではない。これは想定の範囲。あの夫婦が悪いのではなく、軍に徴収されたのだ。


 あの夫婦と話を詰める時に俺はいくつかの指示を出した。食料を配る事、この過程で権力者からの徴収があった場合は神の啓示をちらつかせながら拒否し、それでも要求があるようならば、おとり用のバッグを渡せと。



 当然一組では意味がないので俺自身や他にも、人間性がある程度信頼できそうな商人に同じ事をやらせている。残念ながら数人の商人はこれ幸いと食料を売りつけたが。それは俺の人を見る目が悪かったと後回しにする事にした。



 これになんの意味があるかって?餓えた民に食料を配る。それを奪う教国の軍、更に被害が出てない土地から根こそぎ食料を徴収までしている。何が起こるか? それは火を見るより明らかである。民は教国の敵となったのだ。



 軍は各所で似た行為を行いつつ辺境伯領へと進軍しているようだ。



 大飢饉から4日そろそろ戦が始まる頃だろう。俺はといえばあいも変わらず、人道支援だ。元凶が何をという話しだがな。




 そして俺は声を上げるのだ。



「何故我々がこんな目に合わなければならない?」炊き出しの中俺は声を張り上げた。



「元凶はあろう事か我々の食料を奪い、それを持って隣国を襲いに行ったらしい。神はそんな事をお望みだったのであろうか?」




 周りから怒声が聞こえてくる。




「悪は何だ我々は正すべきではないのか?神が慈悲で施しをするように頼んだ食料まで奪う者を。あれこそが悪ではないのか?」




 我ながら拙いがまぁ結果としてはまぁ及第点だろう。




 それからも拙い演説は続き、終われば別の場所で炊き出しをしながら演説をし続けた。民は発起した、それは波紋の様に広がりいつしか巨大な軍となった。



 一部の領土を治める貴族も加わり更に大きくなっていく。俺は武器を、食料をと提供し続けた。




 そんな食料が何処にあるかって?そんなもん元々置換転移した場所にいくらでもある。この国の物だ、加工してるので判るわけが無いが。




 当然これだけの革命軍が出来れば侵略軍を戻すだろうが、ルイが伝令なぞ許すわけがない。ここまでで10日、そろそろ向こうが引きつけを止めてケリをつける頃合だ。教国自体は守りを固めて軍の帰還を待つつもりらしい。



 であれば、ここに人が多く居ると見せかけつつ、侵略軍を挟撃するのがいちばんであろう。



 そうして革命軍は辺境伯領へと進軍した。


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