第209話月の勇者

 ついてない。あと少しと言う所で何故ギルド総長が現れる。忌々しい。だが、4度目にしてようやく、ようやく思うような結果に近づけている。



 俺はアルト。いうなれば転移者って奴だ。なに、くだらない使い古されたド三流ラノベの主人公とでも思ってくれれば良い。少し違うとするなら、その特殊なスキル構成だろう。この世界に呼び出された時、嫌そうに20面のサイコロを渡してきた爺さん。それで大当たりを引いたらしい。



 特に珍しいのは死に戻り。死んだ時に望めば呼び出された時まで戻れると言う代物。



 次に精神隷属。一人に限るが永続的に対象を自分の意のままに操れる。



 そして、月の勇者。ある意味万能の力だ。荒事はこれで大体なんとかなる、欠点があるとしたら月夜でないと100%の力は発揮できない事だろう。



 ここまで有能なスキルを持ちながら俺は死んだ。俺を呼び出した貴族の女のせいだ。あれだけ尽くした。世界のためと思い可能な善行はやったはずだ。そう思っていた。



 二度目はあの女の動向を見ながら死を回避しようと努力した。その時自分が良かれと思ってやってきていた事が邪悪な行動だと気付いた時は死にたくなった。この回は運悪くオーガの群れと交戦し辛勝したが、その時の怪我で死んでしまった。



 三度目は結局の所あの女が全て悪いと言う事に気付けた。本当良いように使われてたって事だ。俺の死の間際冥土の土産と言わんばかりペラペラと語ってくれたよ。



 そして今回呼び出された俺はすぐに精神隷属を使用した。無論あの女にだ。そして呼び出した目的を聞いた。前回そこは聞けてなかったからな。




 実にくだらない物だった。あの女にとって異界人ってのはガチャだ。ソーシャルゲームのそれと同じだ。何度も呼び出し。使えるなら壊れるまで使い潰し。使えないなら廃棄。そうして権力、最終的には国を欲しかったそうだ。



 今では表面は仲の良い夫婦。実際は俺専用の性欲を解消するだけの肉。これがあの女の末路だ。一応当主はこの女って事にしている。親父殿にはこの世から退場いただいてな。



 権力を得て分かった事はこの国は腐りきっているって事だ。つい最近商人を逆恨みした、王の側近が勝手にそいつを指名手配して。ついにギルドに愛想を尽かされ撤退された。



 俺は犠牲を出しながらも魔物を駆逐してなんとか民の被害は最小限で済んでいるが、他の貴族からの支援が一切無い。別に俺を支援する必要は無い。領主としてやるべき事を成せば良いのだ。だが、やらない。命令されなければやれないのだ。そういうクズばかり。私腹を肥やす事以外できない。



 そこで俺は、王を作る事にした。前王の息子だ。無論俺の傀儡としてのだがな。だがその王子の奪取に失敗した。それどころか今ギルドがこちらに討伐部隊を編成し、進軍している。あの総長も当然一緒だろう。



 敵の数にこそ不安はあるが、今回は大貴族を脅して軍を出させる事に成功した。無論自分の軍も出す。前回は月夜ではないから遅れを取ったが。今夜は満月の晴れ、全てを叩く事は無理だが主力だけでも潰す。



 幸いこの女も戦力としては一級品だ。夜までにまだ時間がある。その前にこいつを使うとするか。






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