第208話茶番

「あるいはどうだろう?巨壁の英雄殿に依頼してみたいものだが。まぁ茶番を挟むだけで何も変わらないだろうけどね。そうだね、今回は事が事だけに単刀直入に言おう。君がやってきた事のおおよそ半分はこちらで把握しているよ」



「俺が何かしたか?俺は行商人。商売はしたが、それがなにか?ギルドともやっているだろう?」


 何を掴んでいる?嫌な感じしかしねぇ。


「君がやってきた事さ。少なくても巨壁での事はある程度把握してるよ。あそこにはギルドこそないが。把握する必要があったからね。特に信頼できる部下が居るって訳さ。それもどうでも良い。君に不利益を起こすつもりは無いからね。ただ知ってるって事だけ知っていて欲しいね」



「監視されてるとでも思っておくさ。それで?俺の不信感を煽って何の得が?」



「力を貸して欲しいだけだよ。依頼はクロヴァクス大公家の当主及びアルトの捕縛、あるいは殺害。過程でその部下とも戦うだろう。ギルドの友達と戦って欲しい。無論ダイスとしてで無くても良い。好きな格好で好きな名を名乗って問題ない。必要ならギルドカードも発行しよう」



「戦争じゃないのか?これは?」



「それは国と国がやる物だろう?これは組織と貴族の闘争に過ぎないよ。報酬はギルド内の情報閲覧の最高位以外を許可。及び君の行動に対する隠蔽や補助もしよう。どうだろうか?」



「それは好条件だ。だが、俺の力を妙に高く見積もっている節があるな。仕事はこなすが。俺の能力の範囲内だ。出来ない事は出来ない。それだけ踏まえてくれ」




「良いとも、良いとも。それに君の隠れ蓑だって実はアテがある。君にはサクライを名乗ってもらいたい」



 日本の苗字だよな発音もそれっぽいし。



「変わった名だな」苗字だがそれを言うのは愚か過ぎる。



「これは家名らしいよ。名はハジメ。ギルドの創設者さ。君にはこの子孫として戦場に出て貰いたい。他に良い隠れ蓑があるなら別でも構わないが。どうだろうか?」


 完全に旗印として戦う訳ですね、戦力もだけど戦意向上にも努めろって事ね。



「その方が都合が良いだろうそっちは。その分報酬に期待してるさ」



「それは期待してくれて良い。取っておきの物を準備してあるさ。最初に行った条件なんてオマケ程度だよ。それじゃ僕は準備があるから。君はガウの様子でも見てやってくれ」



 そういって総長は颯爽と走り去った。


「おっかねぇ。ありゃ腸煮えくり返ってるぞ」言葉や雰囲気こそ飄々としていたが。奥にある怒気は隠せていない。出来れば敵対したくないなありゃ。



 二人の支部長の様子を見に行ったが。二人ともじきに眼を覚ますとの事だった。一安心か。



 さて、総長は激怒していた様だが。俺がそうではないかと聞かれたら否だ。一人で殺るか複数で殺るかそれだけの差だ。自慢ではないが俺に友人は少ない。それを害したのだ。相応の対価を頂こうかね。



 そして翌々日。俺は渡された甲冑を身に着け。集合ポイントに向かう。そこで俺は目を疑った。確かにいつもより街に人が多いとは思ったが。此処に居る人数は町の人全てを足したより多く感じる。1万には届かないだろうが迫る物がある。襲撃から一日で何故ここまで集まる?



 いいや、集めていたのだ。元々クロヴァクス家と事を構える算段だった。そう考えればこの異常な速さも納得が行く。



 そして先ほどから凄い見られている。この黒い甲冑のせいだろうが。些か居心地が悪い。見てる割に誰も絡んでこないから不気味さも相まって、余計にそう感じる。



 総長が来た瞬間俺を見てヒソヒソ話してた連中もピタリと止まった。



「ギルドの友達よ聞いて欲しい。ギルドが襲撃された。それ自体は治安次第で無くは無いかもしれない。しかし、ここはそうではない。敵はクロヴァクス家。これは我々に対しての宣戦布告だ。今回の事態は重いと判断し、特別な助っ人を呼んだ。気づいてる者も多いだろうがサクライ家の末裔の者だ名はイチ。力もその大儀も僕が保障しよう」



 そういう事かよ気づいてる者がいるってこの甲冑そういう物かよ。確かに効果はスゲーよ。死ぬ気がしない。なんだよ自動修復って。甲冑も中身も勝手に治るとか怖すぎる。即死以外はあって無い様な物だろこれ?



 とんだ演出を。それでも与えられた演目はやらざる得無いか。台本は貰ってるしな。



「それではイチ様皆に」


 俺は仕方なく総長の元へ向かう。


 少し大きな手振り、で注目を集めやすい様にしながら俺は声を上げる。まぁどこぞの独裁者の手法だ。演出家として過ごせれば超一流の人間として生涯を終えれた人物の模倣。



 だが台詞はこちらの物ではない。



「遠き祖父の友達よ、今回は集まってくれて感謝する。私から言える言葉は少ない。だが、これだけは言える。遠き祖父のそして貴方達の居場所を奪おうとする侵略者を共に倒そう。私はその為だけに来た」



  歓声があがる。それは重なり合い。まるで一つの生き物の咆哮のように錯覚してしまうほどに力強い。


「さぁ行こう。友達よ」



 酷い茶番だ。詐欺師だな、俺は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る