第202話洗髪

「お客様、申し訳ありませんが公に性奴隷は扱う事はできないんですよ」



 公にはって事は裏では簡単に出来る。罰則の無いルールにちかいのだろうか?



「そんな物はいらん。性行為する予定は無い。そうだな、裸婦画のモデルの扱いに近いとでも言おうか。ただし筋肉のつき方もあるから触って確かめる必要がある。それに近い認識で頼む」


 奴隷商人は少し考え込むと。



「そうですね。本当に性奴隷が欲しい方は国家公認の奴隷商には来ませんね。良いでしょう。身分を証明できる物。あるいは身元を保証するものでも構いません」



 何故こんな話になったかと言うと先日のリシャー商会の晩餐の出来事がきっかけである。



 おっとその前にあのお子様だが。保護者が乗り込んできたのだ。結果尻を叩かれるお仕置きというのを初めてみる事になる。



 親御さんにガルは何一つ隠さずに伝えた。これはまずいのではと一瞬冷たい物が走るが、親御さんの反応は想像の逆だった。



「真に申し訳ない。我が娘は殺されて文句言えた状況に無かった。賊となんら変わりはない。見逃して頂き本当にありがとう。ガルの坊やも本当に助かった」



「あ、ああ。ガルのお陰です。俺は実際殺そうとしましたし」



「それでも踏みとどまって、見逃してくれた。馬鹿な娘ではあるが、一人娘であり、我が領地の守りの一角なのだ。そうそう、貴方は行商人だったね?」



「ええ、まぁ」なんだろう。想定と真逆すぎて困惑している。この人はまともな親御さんにしか見えなくなってきた。




「賠償の話しだが、まずはこれを」渡されたのは腕輪だ。鑑定してみても金を使用しただけの腕輪効果は一切無い。だとすると効果はこの絵だろうか。なんかデジャブを感じるな。



「それがあれば貴方は少なくてもこの国では身元を保証される。それは我が家のエンブレム。面倒事に巻き込まれそうなら使いなさい」




 言葉だけ聞けば立派なおじ様感があるのだが・・・見た目が若いせいで違和感が凄い。中高生くらいにしか見えない。



「それと欲しい物を考えていて欲しい。私の領地は遠いが行商人なら来るだろう。もし来る予定が無ければガルの坊やにでも伝えてくれれば良い。できる限りの事はしよう」



 そして娘を抱えると。



「私はあまり領地を離れられない。もう少し話したい所だが、これで失礼する。ダイス殿、私は貴方に非常に興味がある。もしよければ是非我が領地に遊びに来て欲しい」



 そう言って飛び去った。やっぱ吸血鬼って空飛べるのか。




 ここまでがお子様の件の顛末だ。それからレイウス達と食事をする運びとなった訳だが。



「ダイス殿。災難だったな。だが、これは間違いなく有益だよ。この国で大貴族から二家もの後ろ盾を得た訳だ。その力は凄まじい」




 そう考えると凄いわな。俺的には関所や村や町の入り口のフリーパス権程度の認識だったんだが・・・いやその程度に留めるのが良いのかもしれないな。



「それとダイス殿。今日は妻を紹介させてくれ。リーシャだ」




 レイウスお前・・・独り身の独身貴族ではなかったのか?そんな雰囲気だっただろう?俺を裏切るのか?


そして部屋にリーシャさんが入ってきた。出る所は出て引き締まる所はスリムである。そうそう、こう言うのだよ俺が求めてるのは・・・畜生。勝ち組め。



「リーシャさんってもしかして。この商会の?」



「ああ、そうさ。リーシャは僕の女神だからね。」熱いこった。今ならブラックコーヒーを飲んでも甘そうだ。



「もう、貴方ったら」その後、奥さんはこちらを向きお辞儀をして。



「お初にお目にかかります。レイウスの妻、リーシャです」と顔を挙げこちらを見る。そして奥さんはフリーズした。




 どうした?知り合いではない。こんな美人見たら覚えてる。夫であるレイウスも困惑している様子。



 動き出したと思ったら凄勢いで俺の元に迫ってくる。まるで何かに取り付かれたように。俺はいつでも対処できるように鑑定での把握と自身に様々な上昇修正を与えた。



 だが彼女が俺にしたのは・・・髪に触るだった。



 レイウスは何か思うところがあったらしく「すまん少し付き合ってやってくれ」というがこの状況凄く怖いんですが。今まで感じた事のない、形容しがたい恐怖だ。危機感こそ感じないし、敵意も無いのは分かるからいいが。そろそろ勘弁して欲しい。



「どうやったら」どうやったら?



「どうすればそのような髪になるのでしょう?」彼女から出た言葉はそれだった。




「ダイス殿の髪は女性の髪のそれより遥かに美しい。酒にばかり目が行って気付かなかったが。その方法を商売にすれば売り上げだけではなく、伝手もかなり広がるだろうな」



 ここで俺は奴隷という従業員に目を付けた訳だ。



「レイウス。奥さんの髪に触るが良いか?」




「夫の許可等必要ありません」レイウスが口を開くまでも無く言い放つ奥さん。レイウスもこれには苦笑いだ。



「それでは桶を5つと人肌程度に暖めたお湯を準備してください」



  そして洗髪が始まった。5つ準備したのは多分汚れが凄いからだ。無論洗ってはいるだろう。だが、この世界の石鹸など使おうものなら髪は痛む事請け合いだ。そもそも石鹸をみた記憶が無い。




 ただ洗って、最後にミルクと蜂蜜を主原料にしたリンス。他にも色々あるが自分の為に作った物である。




 あとはこの世界では結構使われている。ドライヤーの代用のような魔術を使用する。火も風も初級の上、威力が必要ないので。魔術の素養がある女中なんかは大体使っている。



 結果、サラサラのツヤツヤ求めている髪になって奥さんは御満悦だ。疲れた、もう飯はいいから寝たい。



 当然質問責めに合う訳だが。


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