第190話薬酒

 長かった。既に日は沈んでいる。知っている限りの商業関連の情報と地理を交換したのだ。これでも早いほうだろうが。疲れた。



「流石に疲れたね。ダイス君。部屋を準備させているから。宿は心配しないで良い」



「それは助かります。今からでは宿が無いかもと思っていたところです」嘘だ。最悪帰って寝れば良いのだから。



 それから酒のフレバーについて語り合い、彼は唐突に何か思い浮かべたかのように。



「それにしてもダイスさんは良い時期に来た。7日後はこの街で私主催の競りがあるのだよ。良ければ何か出してはみないかね?」



 ここで下手な物は出せないな。こちらの力を試す意味合いもあるのだろう。



「では俺の作った酒というのは如何でしょう。作ったといっても漬け込んだだけですがね」



 ほう、言うと空気が変わる。根っからの商人なんだろうなこの人。



「実に興味深いですな。何か作ってるとは思いましたが、競りにかける程という事ですか」



 まぁそうだわな。安物等許される訳がないもんな。


「ええ、こちらなんですがね。材料が材料だけに3壷しかないんですよ」妖精の実と島の花の蜂蜜をふんだんに使った酒だ。味はレモネードに近い」



「御希望価格は?如何程で?」



「最低金貨50枚で」



「1壷だけ金貨80枚で買いましょう。気になって仕方ありません」



 じっと話を聞いてたガルだが、ここで割り込んでくる。



「旦那、俺も一部持つから1杯くれねぇか?そんなぶっ飛んだ値段の酒飲まないなんてありえねぇ」



「最初からガルの分はある。不要だ。さて見せてもらおうか。ダイス君の実力を」



 なんかバトル物の少年漫画見たいになってきてるが。ただの飲兵衛が騒いでるだけなんだよなぁこれが。



 一壷渡すと、すぐに杯に注ぎ二人は飲む。しかし、二人は首を傾げる。値段と味が見合わないから当然だろう。



「確かに美味しいですがこれは・・・」申し訳なさそうにレイウスは言う。だがガルは違う。



「こりゃ高い訳だ」



「ガルどういう事だ?」



 自分に価値が見出せず部下はそれに気付く本人は困惑しているだろう。


「こいつは見てもらったほうが早いな」



 ガルは唐突に上に着ている物を脱ぎ出す。



「なっガル。傷が」



「ああ、そうだとも旦那。呪い付きの剣で切られた時のアレが綺麗さっぱりだ」



 何故分かったかなんて一目瞭然。健康で無傷な人間にこの酒は無意味だからだ。ポーション程の効果は無いが、それでも十分優れているのがこの酒だ。



「次の競が楽しみで仕方ない。実に素晴しい。私の想像以上だ」



 少しリスクがある行動だが、問題は無かったので良しとしよう。


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