第165話試飲

「先日は助かった。名はダイスだったな。とりあえず給金だ。受け取ってくれ」そう言って金貨が5枚入った袋を貰った。一日足らずの護衛としては破格も破格である。


「こんなに頂いてもよろしいので?」正直額よりも、挨拶してすぐこのやり取りがあることの方が驚きだ。



 そもそもこの屋敷かなり厳重な警備が敷かれているが。ガルを見るとすんなり通してくれた。彼自身懐刀のような存在なのだろう。




「構わんさ。君はそれだけの働きはした。労働には見合う対価をだ。時にダイス。面白い酒があると聞いたが、一本買い受けることは可能かね?」



「旦那、俺は旦那の事は商人と言う事以外話して無い。まずするべきことがあるんじゃねぇか?」



 やれやれと肩を竦めるがる。




「これはすまない。私はリシャー商会の会頭レイウスだ。あまりにもガルがはしゃいでいた物で興味が湧いて急かしてしまったよ」おっさんの癖にさわやかに笑いやがる。イケメンってのは歳を取ってもずるいもんだ。



「いえいえ。こちらのお酒ですね。1壷銀貨5枚。美味しい飲み方に銀貨を・・・と言いたい所ですが、特別に無料で結構です」



「飲み方があるとな」興味深そうに壷を見る。



「まずは少量お飲み頂き、そのものの味を楽しんでください」


 言われた通り小さ目の杯に入れ飲む。



「これは凄いな。焼けるようだ、だが私は気に入った。さぁ飲み方を教えてくれ」



 俺はこれを売り出すときの為に色々と準備していた。そうカクテルの様な物を造るためだ。



 取り出したのは、柑橘系のレモンにほんのり甘さがあるような物をスライスし、蜂蜜に漬けた物だ。




 これを先ほどの杯に入れ。氷と共に混ぜる。ただこれだけだ。だがこの人が商人だと言うのであれば、面白い事になるだろう。




「見るにモレの実と蜂蜜かな?」そしてそれを口に含み。目を見開く。




「素晴しい。実に素晴しい。ダイス。君は実に有能な商人だ。ガルこれを飲んでみると良い。お前にも私の驚愕が伝わるはずだ」



「こいつは凄いぜ。旦那、俺はそのままの方が好きだが。示す意味ははっきり分かった。ダイスさん。氷を作る魔術が使えるのも驚いたが。これはその非じゃねぇ」




「しかし、だからこそか。実に良い。こう言いたいのであろう。この酒は何にでも染める事が出来る。果て無き酒だと」



「はい。この酒は癖が非常に少ない。しかし、酒としては非常に濃い。何かと混ぜる。あるいは漬け込む事で色々な顔を見せるのが魅力です。そして、反応からして、この大陸にはまだ無いのでは?もしそうであれば、味を複数作り別の物として売る事が可能だと思います」



「海を越えてきたか。成る程、話しが見えてきたぞ。ダイスは、私にこの酒を売り、私は味を付けて売り出せと言う訳か。良いだろう。いや、こちらからお願いしたい。この酒を出来るだけ多く卸して貰えないだろうか」



「この酒は売れる、それは分かってます。しかし、誰に卸すかが難しかった。貴方にならうまくいく」



 リップサービスだ。酒は餌。欲しいのは情報。後は如何に上手く潜り込むかだ。

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