第150話英雄の成れ果て
俺は転生者だ。この世界に生まれ直した珍しい部類になるそうだ。この18年守るものを守り、全力で生きてきた。最初に神とやらにあってダイスを渡されて手に入れた力。概念武装、様はイタコの上位互換というのもおかしいが、人々の想像する人物を己に武装する力。これを手にした。
神には期待していると言われ。舞い上がったような記憶がある。赤子の時の不自由さや、文明の差に愕然とした少年時代。それでもこの力を使い、生活を良くする比較的簡単な発明を再現し、周囲の魔物は蹴散らした。
7歳くらいになるだろうか。その頃には神童などと呼ばれ、大人達と行動を共にし、果てには王の護衛を任されるまでになった。
ここまでは良かった。教国が周囲国を少しづつ併合しだしたのだ。定義も無いただただ無法な言いがかりだけの理由で。理由は分かっている。巨壁の国が狙いだ。あの国はあまりにも堅牢。攻めてどうにかるとは思えない。
当然この国にも侵攻の魔の手は伸びてきた。数えるのが馬鹿らしい程の敵を殺した。同量の仲間を救った、ついには英雄というスキルを手にした。それから数年敵を追い払う戦いが続いた。
そしてついに俺は負けた。スキルが人の手に余るほどの英雄達の技能の模倣。これを使えてようやく押し返せてたのが、一気に崩れた。後は濁流のように、恥辱陵辱、殺戮が俺の第二の故郷を襲った。奴隷に落とされ二重の呪いを付加され。歩く事さえままならない程の拷問を受けた。
最早人質も要らぬと、目の前で犯された後に首を落とされた。最後に残った知り合いは、俺と然して変わらない戦友が二人のみだ。
それからも地獄は続いた。俺も慰み者の対象になるとは思っても見なかった。体も顔もこの時点でボロボロ。それでも奴等の醜悪さは俺を許さない。今の状態の俺は何一つ命令を拒否できない。口にするのもおぞましい日々を戦友共々すごして来た。
今思えば戦友を残したのは自壊させない為の楔だったのかもしれない。
「お前達に素晴しい知らせがある、感謝するが良い」
ニヤニヤとした拷問官兼執政官殿の言葉はこうだった。巨壁の国へ聖戦に出る。俺達が戦働きが出来れば恩赦が与えられると。
俺は喜んだ。これで死ねると。
仲間とは幸い同じ隊に組み込まれ。肩を借りながら何とか行軍する。着いた先は目も眩むような巨壁、恐らく城門までたどり着けまい。
そう思ったが難なく戦奴隷達は城門前までたどり着く。どうやら俺達は眼中に無いようだ。好機とみて一気に攻めてきた本郡に弓が降り注いでいる。
そして俺達は破城槌を担ぎ門を叩いた。その時少なくても俺と戦友は分かってしまった。ここは既に門では無いと。門の後ろは他の城壁と大差ないだろう。門の形をした城壁。抜ける訳がない。
その時聞きなれない音。ダンッと破裂音が聞こえた。この音は覚えがある。この世界では無い物。元の世界ではテレビの中でしか聞くことの無いような物。銃声だ。
振り返れば、官を持つ者と上級騎士だけが綺麗に頭部から花を咲かせていた。
「勝てる訳が無い」自然と口から出た言葉がこれだ。ファンタジー世界に現代武器を持ち込むスキルとかふざけているとしか言えない。
せめてもの救いは、命令する者が軒並み死んだお陰で、俺達は無駄な攻城をせず降伏するだけで良いという事くらいだろう。
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