第19話討伐報酬を貰いにいこう

「ここのギルド長、またはそれに準ずる人と話がしたいのですが?可能ですか?」



 俺はギルドに朝一で向うと欠伸をかみ締めている受付嬢にそう言った。


「どのような御用件でしょうか?」



「言っても良いけど、できれば責任が取れる立場の人が好ましいんだけど?お姉さんはそういう人かい?」



 こういえば長は出てこなくても、それなりの人が出てくるはずだ。これだけの部位証明を末端に見せれば、最悪変に評価されて・・・それは良いが、それはギルドだけで留めて欲しいのだ。



 命が軽いこの世界。身分差で簡単に人権など無視される。下手に有能かもなんて噂が出れば使い潰されるのがオチだ。街に置いとくくらいが丁度良い、そう思われるくらいの評価が一番なのだ。



「分かりました。丁度いらしたようなので、執務室に向ってください。2階の奥の部屋です」



「助かります」



 ドアを3回ノックし、どうぞと返事が来てからはいる。この世界ではこれで良いのかは分からないが、とりあえず通じたようだ。



 中に入るといかにもちょい悪オヤジというような風貌の人物が待っていた。


「話はミリ君から聞いたよ。なんでも責任者格の人間と話がしたいんだって?まぁこっちとしても幸運の英雄君とは話してみたかったし丁度良かったよ。」



「なんですかその凄い異名は。俺はたまたま、弱っていた無法者を間引いただけです。寧ろ称えるならリュートさんでは?」



「確かにそうなのかもしれない。でも民衆なんてものは、面白い方を祭り上げるのさ。こればかりは諦めたまえ。さて、僕が出てこないといけない話とはなんだね?」



 まずは物を見せるか。力を示すにしてもまだギルドのほうがマシだ。このくらいの実力者なら沢山いるだろうし。なにより、リュートの話しでは信用ができる機関とのことだ。緻密で厳格なルールがある分貴族より余程信頼がおけるそうだ。


 この町に滞在するのもあと数ヶ月の予定だ。これからの食い扶持はギルドに頼る所も多くなる。ならば協力を仰ぐのは当然だ。ここで無理そうならギルドは完全に無い物として生きるべきだと思っている。



 机の上に証明部位をのせる。



「確認しても?」



「ええ、先日1日での物になります」



「はは、これは凄いね。あれは幸運でもなんでもなく実力だった訳だ。で?どうしろと言いたいのかな?」



「簡単なお願いです。俺は目立ちたくない。今更と思うかもしれないが、権力者がどれだけ危険で残忍な者が多いかは理解してるつもりだ。そいつらの目には止まりたくない」


 うんうんと頷き「君は随分と頭の良い子のようだ。実はギルドの上位者になる者はその過程で半数引き抜きに遭って引退する。その半数のうち3割は悲惨な最期である事が多い。君の危惧するパターンに陥った子達だね」



「いいよ、だったらこうしよう。君は多少のお金は持ってるね?」



「多少は」


「そう警戒しなくていいよ。大金貨2枚をまず預けて欲しい。その代わりこちらはマジックバックをそちらに預けよう。見た目の数十倍入る凄い代物さ。君はこれに証明部位や買取して欲しい物を入れて受付に渡す。後日こちらは買い取り額を入れて君に渡す。これなら人の前で君の戦果を晒さずに目立ちにくい。どうだろうか?」



 大金貨2枚はでかいが道具の価値を考えれば当然か。


「因みにこの貸し出しは、一般的に行われてるサービスの一種だから不自然も無い」こちらの思考を先回りしたような言いようだ。しかしその通りなので助かる。



「お願いします」と即座に大金貨を渡す。



「即決か、やはり素材屋も上手く行ってるようだね。今回の報酬は今渡そう」銀貨31枚を受け取った。


「君には期待しているよ。実力的な意味でも、貴族を警戒できるその聡明さにもね」


 執務室を後にしたが、なんかどっと疲れた。今日は店で物を売るだけの予定で良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る