第16話女領主は価値に気付く

 執務室で私は黄昏ている。この淡い赤の指輪のせいね。あの店にあった商品を2つずつ7種類ほど購入した。かなりの出費ね。それでも後悔は無い。一つは使用する目的、一つは解析する目的。



 解析の方は残念ながら完敗。殆んど何も分からなかった。ただ、この指輪は金と銅と何かで出来ている。それだけでも収穫よね。



 金に何かを混ぜて脆い金を補強するのはあること。でも、混ぜ物をして他の色を作り出そうなんて考えは今まで無かったわ。それと買った鉄などの資材はどれも質が高く私でもあまりお目にかかれないものばかり。




 そしてこれが一番の問題。このネックレス、溶かそうと試みたけど無理だった。これはクズ銀じゃないかと私は睨んでいるの。彼があちらこちらでクズ銀を買っている事は調べが付いているわ。クズ銀は扱えないからクズな訳で、もし、もしも扱えるようになれば錆びない銀。まさか聖銀とは別物だろうけど、その価値は銀以上の価値が付くのは間違いないと私は思うわ。




 彼は小出しにしている感がある。ここ数日経過を見させているのだけど、彼は良い素材屋程度で留まろうとしている節があるのよねぇ。無論、準備に時間がかかって今の稼動が限界の可能性もあるわ。でも、それだと指輪等をほぼ作らない理由にならない。




 あれだけの物を作っておいて、素材でそこそこの稼ぎを出すなんてそれ以外考えられない。私ならそれなりに作って、地位ある人や金持ちに売るわ。それだけで稼ぎの桁が変わるもの。



 やはり欲しいわね、彼。引き出しはまだまだありそうなんですもん。でももう少し様子を見ないとね。幸い彼の本当の価値に気づいている者はいない。精々良い金属を売る商人止まりの評価、本職でも無い者が作る物に見向きもしない人間が多いのがその原因だろう。



 さて、どういう風に彼を口説こうかしら。



 一人楽しそうに笑う女領主がそこにいた。

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