第12話宿での会話

 宿に着くと彼は既にいた。大分前から待っていたって、親父さんが言ってた。待ち合わせは今くらいのはずだが。




「随分待たせてしまったみたいで、すまん」


「良い、勝手に早く来て待っただけだ。ここは食事も美味いし、寛いでいただけさ」



 美形にのみ許されそうな台詞だ、俺にはこういうのは無理だろうな。顔のスペック的に。目立たない容姿だから個人的には利点だと思いたいが。黒目、黒髪自体が珍しいので非常に残念な事にその利点すらない。おっと思考が変な方向へ飛んだ、今は用件を聞こう。



「どうされたんですか?お嬢様の護衛もあるでしょうに」


「それは問題ない。もう一人が今はついている。それより、お前の力はなんだ?あの化物を倒せた?お前とここに来るまで共にしたが、そんな力は感じなかった」


「その通りです。私に力などありません、未熟ですからね。あの人攫いとの戦いを見ていた人はかなりいると思います。その人に聞いてみると良い、化物同士の戦いと言うより、人間同士の喧嘩に近い物だと印象に残ったはずですよ?」



「確かにそういう話だった。だが奴はそんな強さではなかった。何故おまえが倒せた?お前は恩人だし、感謝もしてる。だがどうしても納得がいかないのだ」




 どういうべきか・・・本当のことは言う気にはなれん。この世界の命の軽さを見たのだ。切り札は晒したくない。



「ではリュートさん、奴と対峙して妙な事はありませんでした?例えば身体能力はずば抜けていて勝てないが、その動き自体は素人のそれだったとか」


「それも気になっていたんだ、知っているのか?」


「これは憶測でしかありませんが、俺の上位互換、要するに身体能力を爆発的に向上させる魔術なのでしょう。リュートさんとの戦いで維持できなくなっていたのか、俺とやりあった時には普通の村人同士の喧嘩レベルでしたよ」



 リュートは考え込む。しばらくして「確かにその推測は正しいかもしれんな。聞いた話とも合致する。変に時間を取らせてすまない。そして本当に助かった、ありがとう」



 それから少しばかり他愛の無い話をして別れた。その後、町では勇敢に立ち向かって運に救われた少年という評価に落ち着いたようだ。



 少し有名になってしまったのは残念だが、良い意味で有名な事とあくまで平凡な人間としての評価なのが救いだろうか?




 これで利用しようなんて輩は来ない、はずだ。



 さて次はなにをやろうか?

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