第11話知識は偉大なり

 目覚めは最悪だ。まだ首を断つ感覚が残ってる気がする。部屋を出て、食堂に向うとリュートと少女が待っていた。



「昨日は助かった」深く頭を下げてこちらに礼をするリュート。生真面目な男なのだろう。



「朝食はまだですか?良かったら一緒に如何です、幸い臨時報酬があったので御馳走しますよ」



 リュートは困惑した様子で「礼をする立場は私だ。それでは立場があべこべではないか」



「さて?本当にそうでしょうか?臨時報酬というのは御存知の通り暴漢の討伐によるものです。しかし、この討伐は殆んど一人のエルフがやったような物で、俺は弱りきった獲物を横取りしたに過ぎません」



「確かにこの報酬はあべこべですね。こちらは2割貰えば結構です。8割はリュートさんに差し上げます」




 何故こんな事をするかって?簡単な話だ。俺は強者として目立ってしまった。当然だがそれだけの実力は無い。横取りとは言い方が悪いが周りからは、そうは捉えられまい。報酬が出るとは知らなかったのは周知の事実だ。この事を踏まえ俺の評価から強者の部分を取り除く事が出きる。


「例えそうであろうと貰える訳があるまい。お前が来なければ最悪の未来は間違いなかったのだ」




 まぁそうだろうが。今回は俺のスキルが偶々噛み合った。それだけだ。勝ち目が無い争いに参加するほど俺は勇敢じゃない。



 リュートの後ろから小さな少女がオドオドしながら出てくる。実に可愛らしい。これを味見・・・あの勇者(笑)かなり危なげな性癖だったようだ。どうみても小学生、中から高学年くらいにしか見えん。DQNって比較的性癖はノーマルな気がしてたんだが偏見だったのだろう。


「あ、あの。昨日は助けてくれて・・・ありがとう」


 人見知りするタイプかね。お礼が言えるだけ偉いんじゃないかな。



「どういたしまして、でも俺よりリュートにお礼を言わないとね、アレだけボロボロになりながら君を守ったんだ。そうそうできる事じゃない」



「リュートもありがとう」



 リュートは呼捨てなのか・・・お嬢様って言ってたし。護衛的ななにかか?その割には昨日は俺と野宿で護衛してないし、その辺は・・・止めておこう興味本位で詮索する案件じゃない。


「そういう訳でリュートさん、十分すぎる程報酬は貰ったよ。随分可愛らしい礼ではあったが、俺が大した事をしたわけで無し。十分だ」



「分かった。後で二人で話がしたい。時間はあるか?」



「ああ、問題ない。夕方にはこの宿に戻っているだろうから。その時でいいか?」



「助かるよ、また夕方会おう」



 そう言ってリュートは少女を引き連れて帰ってしまった。飯ぐらい奢るのに・・・まぁ良いところの出のようだしいらんわな。




 気分は悪いが。宿の親父にこの事を話したら。冒険者を始めれば誰だって通る道だ。悪党を切ったんだ、胸を張れと背中を叩かれてしまった。



 なんとなく、少しだが気が晴れたような気がした。どちらにしろ今日もやる事はあるのだ。この世界の一番価値のある通貨は金貨だ。白金ではない。何故なのか。考えられる可能性は2つ。一つはそもそも白金が無い。もう一つが加工する技術がなく、価値がない。



 もし後者だとすれば、これは是非とも欲しい。錬金術があれば加工など容易い。ある程度集めてから、その価値を証明すれば良い。簡単な話だ。優れているのは既に前世の世界での価値が証明している。



 まず向かうのはこの町の鍛冶屋だ。金属の事を聞くならここだろう。



 鍛冶屋に入り、話を通して。なんかイメージとは違う小奇麗な通路を通り、職人さんに話を聞く。



「ああ、そいつは銀モドキだな。これは使い物にならねぇぞ」


「その銀の色を好きな人が集めてましてね。買い集めてるんですよ」


「なら鉄の1割の値段でいいぜ。こっちはいらん。ある分ださせるからもってきな」



これは美味い、ついでに銅を買い込むか。



「あと銅を売って欲しいのですが」



「そっちは店で言いな」



ぶっきら棒だが地味に対応が丁寧な気がする。



 さて何故銅を買ったか。この世界は多分まだ練成が甘く、銅に金や銀がまじってる可能性が高いのだ。買った白金は原石のまま。どうもある意味原石に近い何かだ。



 町の外に出て抽出を行うと白金は勿論、少量ではあるが金や銀が取れた。これだけで素材分以上の儲けが出るわけだ。



 後は簡単だ。銅塊をもって見せに行き、スキルを行使しながら売る。銅を売るだけなのに買った額より増える。質が良い銅と評価されたようだ。



 差し引き小金貨1枚、良い儲けだ。



 そろそろ夕方だ。リュートとの約束もある。宿に戻ろう。

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