第28話 本当は隠す気がないだろう
二人の視線が集中したことで、コータは一瞬息を呑む。
「どうしたの?」
「二人に見つめられると緊張して……」
「そんなに怯えなくてもいいだろう?」
「いやいや、怯えたわけじゃないって」
「じゃあ何よ?」
「何でもないって」
そう言ってコータは話しながら目をそらした。ちょっと目が泳いでいたけど、確かに怯えた感じはなく緊張をしているみたい。……変なの。
少し様子を見ていると、コータはわざとらしく咳払いをしてから視線を上げる。
「れ、冷蔵庫の話だったな」
「あ、うん」
「簡単に説明すると、食材を冷やして鮮度を保つための道具だよ」
食材の鮮度を保つ、か。それならつい最近見たばかりだよ。
「保冷庫みたいなものかな?」
「似たようなものがあるのか。電気は――あるわけ無いか。ちなみにその保冷庫ってのはどうやって動かしているの?」
「動力は魔石だけど、結構お金がかかるからあまり持っている人は少ないかも」
私の実家にもあったけど、カイくんに聞くまで冷却用の魔石が高いとかそういう話は知らなかった。念の為にサクヤの方を窺うと、同意するように頷いてくれた。
「そっか、ちなみに冷凍冷蔵庫なら食材を冷やすだけじゃなくて、氷を作ったりもできるんだ。一般的な家庭には普及している」
「へえ、すごいね。家で氷とか作れるのは便利そう」
そんな便利なものがあったらカイくんも喜びそう。
「そうだな、驚くような話ばかりだ。ちなみに、君はその冷蔵庫とやらのことを何処で知ったんだ? そして何処の一般的な家庭に普及しているんだ?」
「あっ……」
一瞬、時間が止まったような錯覚に陥ってしまう。先程まで自然な笑みを浮かべていたサクヤだったけど、私とコータの反応を見て呆れたような顔をしている。
「……二人共、本当は隠す気がないだろう」
「そ、そんな事無いよ。これは……、そう! コータの作り話よ! ね!?」
「あ、ああ! 作り話だよ!」
「わかった。わかったから。これ以上墓穴を掘らないでくれ。……元々、今日は深く追求するつもりはない。あまりに二人が無防備過ぎたからイタズラしてみたくなっただけだ」
サクヤが残念な人を見るような眼差しで、申し訳なさそうにしていた。
……穴があったら入りたい。
「とにかく、だ。二人はもう少しつじつまを合わせる努力をしたほうが良いだろう。このままここにいると、もっと余計なことを知ってしまいそうだ。今日のところはこれで失礼することにするよ」
「うう、面目ない……」
「私だから良かったが、外では本当に気をつけてくれ。聞かれてまずいような話をうかつにしないようにな」
はい、気をつけます。
帰り際にサクヤから私に手を出さないようにと念押しがあったので、コータは死にそうな顔をしている。それでも私と一緒に見送りに出てくれたあたりは純粋に尊敬してしまう。意外と根性があるなあ。
そして今はコータと対面に座り、肩を落としてうなだれていた。本当はサクヤに隠し事なんてしたくないんだけど、自分の恩恵に話が及んでしまう可能性を考えると、まだ少しの間は避けておきたかった。そんな自分が嫌になってしまうけど、もう少し、もう少しだけ時間が欲しい。
「はあ、サクヤには悪い事しちゃったなあ」
「確かにさっきは俺も迂闊すぎた。ティーナの大事な友だちなのに……。ごめん」
「ううん、私のせいだから気にしないで。でも、最初に会ったのがサクヤでよかったよお」
「確かになあ、今度からは迂闊に科学の話をしないようにしないとな」
「科学?」
「あー、科学もだめか。俺が居た世界に魔法は無いけど、代わりに発展したのが科学なんだ。さっきの冷蔵庫も科学で作られたものさ」
科学かあ。確かに迂闊に話さないほうが良いかもしれないけど、さっきの冷蔵庫にはとても興味が湧いてしまった。
「冷蔵庫って道具は、魔石もなしにどうやって食材を冷やしているの?」
「俺も仕組みに詳しいわけじゃないからしっかりとした説明はできないんだけど、簡単に言ってしまえば、熱交換をして冷媒を冷やしてるんだ」
「うん、わからない」
「だよなあ」
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