第27話 心配してくれてありがと

 結論から言ってしまうと、翌日にはすぐにバレた。とは言っても、今の所はサクヤにバレただけなんだけどね。


 たまたま家に遊びに来たサクヤにコータのことを遠縁の親戚だと紹介したところ、これが面白いくらいにまったく通じなかった。私的には無理筋だけどなんとか通せないかなあと思っていたんだけど、それ以前の話だったみたい。


 この町に来てから知り合った人達はともかく、サクヤみたいに私がこの国に移り住んだことを知っている人からすれば、いやいやそんなはず無いでしょとなるらしい。たまたま移り住んだ国の見知らぬ町で、偶然遠縁の親戚と知り合って、しかも一緒に暮らし始めるとかありえないと。うん、至極最もな意見だと思う。


 つまりヨーカさんやカイくんにも通じないということになるし、カトリとキトリにも無理ってことかな。セシリオさんには通じるかな? って何で私、セシリオさんのことが思い立ったんだろう?


 そして今は、自宅の一室で私の目の前に座るサクヤが静かに怒っている。ちょっと怖い。


「それで?」

「あ、あはは、ちょっと事情があってね。暫くの間保護してあげる事になったの」

「そ、そうなんだ! ティーナは路頭に迷っていた俺のことを助けてくれたんだよ」

「君は黙っていてはくれないだろうか?」

「あ、はい……」


 場をなごませるために軽めな会話を試みたものの、どうやらサクヤには通じなかったらしい。コータもサクヤの眼力の前では目を合わすことも難しいみたいで、挙動不審状態に陥ってしまっている。


 一拍置いて、サクヤの視線は再び私の方を向いた。そしてゆっくりとまばたきを一つ。


「私はティーナとは良き友人関係を築いていると自負している」

「も、もちろんだよ!」

「それでも言えない事情、そう考えれば良いんだな?」

「う、ごめん……」


 コータのことを説明しようとすると、どうしても私の恩恵の話に触れなければいけなくなってしまう。サクヤだったら邪な恩恵と知っても変わらず接してくれるとは思うけど、もしそうじゃなかったらと思うと話すのが怖くなる。


「その男に何か弱みを握られて脅されているというわけでは無いんだな?」


 そう問いかけるサクヤの目は、私の小さな反応も見逃さないようにするかのように、まっすぐにこちらへと向いていた。


 ……そうか、サクヤは私の事を心配してくれているんだ。そう感じることができたせいか、ついつい嬉しくなって笑みが漏れてしまう。


「ありがとう。その心配はないよ。多分、サクヤにならいつか話せる日が来ると思うから、それまで待って欲しい」

「そうか、わかった。その日を楽しみにしているよ」


 サクヤは何度か頷いて納得してくれたようで、おもむろに席を立った。そして次の瞬間、懐から短めの刃物を抜刀してコータの喉元に突きつけた。ちょ、ちょっと!?


「そこの君」

「は、はひっ!」

「ティーナもああ言っているのだから、ひとまず一緒に暮らすことには何かしらの合理性はあるんだろう。――だが、間違ってもティーナの好意を裏切り迷惑を掛けないようにして欲しい。そうなってしまうと、ティーナの友人として君を許すことができない。最悪、君の首が飛ぶことになるかもしれない」


 サクヤの不意打ちにコータは目を見開いて驚き、首を上下に小刻みに振って同意を示した。……あー、ちょっとコータには刺激が強すぎるかも。あ、気絶した。


 椅子に座ったまま白目をむいて気絶するという、器用な真似をしたコータには可愛そうだけど、サクヤが本当に私の事を心配してくれている事に嬉しくなってしまった。


「何だ、こんなことで気絶するのか。情けない。ん、どうした?」

「ふふ、サクヤ、心配してくれてありがと」

「友人として当然のことを言ったまでだ」

「それでもありがと」




 コータが意識を取り戻すまで、サクヤとはコータがいかに弱そうかという話で盛り上がってしまった。コータには悪いと思いつつもちょっとだけ楽しかった。


 目を覚ましたコータはサクヤを見るなり小さく悲鳴をあげたけど、サクヤが不思議そうな顔をしていたのもあって首を傾げた。夢の中での出来事だと思ってたりして。


「しかし、君は本当に弱そうだな。いっそのこと冒険者になって自身を鍛えてみてはどうだ?」

「お、俺が? いやいや、流石にそれは無理じゃないかな。冒険者って言うくらいだから命がけなんだろ? 俺、人を殴ったこともないし」

「……君はいった今までどうやって生きてきたんだ?」

「そ、そんな事を言われても……」


 サクヤが呆れたような口調で問いかけると、コータはあからさまに落ち込んだ様子を見せた。流石に世界が違うから常識も違う。私が見た範囲では無機質だけど争いごとが身近にない世界だった。きっと、それが普通なんだと思う。


「まあ、サクヤもそんなに責めないであげて。お茶が冷めちゃったね。入れ直してくるから待ってて」

「わかった」

「あ、俺は何か冷たいものが飲みたいな」

「君は随分と図々しいな」

「ごめん、流石に氷は用意してないよ」

「図々しいって――そっか、ファンタジーだし冷蔵庫とかもあるわけないか。ごめん、今のは忘れて」

「「冷蔵庫?」」


 コータが発した聞き慣れない単語に、私とサクヤの言葉がハモった。

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