第26話 ものすごく弱そうだし

 どう同説明したものかと悩んでいると、コータが不思議そうに首を傾げた。


 できることなら私の恩恵に関しては何も知らせないほうが良かった。だけど、コータはすでに恩恵の効果の一部を体験済みで、私もうっかり恩恵という言葉を使ってしまった。


 でも、これはこれでちょうどよかったのかもしれない。


 確かにコータにはこの世界で誰か知り合いがいるわけじゃない。だけど、これから先はどうなるかわからないし、ふとした機会にポロッと話題に出してしまう可能性だってあるかもしれない。それなら多少の話はした上で、恩恵に関して触れる危険性も説明しておくことには損はないと思う。


「んー、どう説明すればいいかな」

「聞いた感じは千里眼とか天眼っぽいけど、違うの?」

「そういった名前の能力は聞いたことないけど、コータの住んでいた世界ではそういった物があるの?」

「一応、歴史とかで特別な力を持っていたとされる偉人はいるけど、古い話は誇張されていたりもするし、多分ほとんど創作だと思う。確認のしようもないしね。ちなみに千里眼とか天眼は遠くのものが見れたり、本来は見えないものが見える力だよ」

「ああ、多分似たようなものかも」


 名前以外は。


 コータの話し様からすると、向こうの世界には特別な能力を持った人は身近には存在しないのかな。その割にすんなり受け止めるのは世界が違うからなんだろうなあ。少ししか見てないけど、今までに見たこともない想像したこともない不思議な物がいっぱいあったからコータもそう感じたのかも。


「あと私も中途半端に話してしまったから悪いんだけど、この世界ではなるべく他人の恩恵に関しては問わないほうが良いわ。人によってはものすごく嫌がることもあるから。最悪殺されてしまうことだってあるかも」

「え……、マジで? 世界観ファンタジーっぽいし、やっぱり殺されるとか普通にあるんだ」


 殺されるという言葉を聞いたことで、コータがなにやら過剰に驚いているように見える。もしかしたらコータが居た世界には死が身近なものではなかったのかもしれない。それならなおさら心配しないといけない。


「町の外に出れば魔物に襲われるし、盗賊だっているわ。ここは町中だから魔物は居ないけど、それでも人気の少ない裏路地とかは悪い人に襲われることだってあるの。コータはそのあたりの常識も切り替えていかないといけないわね」

「俺、この先も生きていけるのかなあ……」


 生きていく、か。


「ねえ、コータ」

「何?」

「どこか行くあてはある?」

「ここが何処かもわからないのに、行くあてなんてあるわけないよ」

「だよね」


 彼は異世界からやってきた。知り合いなんて一人も居ないし、お金だって持っていないよね。少し話しているだけでも常識も結構違う。このまま放り出したら明日まで生きていないかもしれない。……仕方がない、かな。


「仕方がないわね。さしあたって対策が見つかるまで、ここで暮らしても良いわ」

「君はそれで良いの?」

「問題があるかないかで言えば、もちろんあるわ。だけど――」


 今の私だって、路頭に迷ったところを色んな人の好意に助けられて、なんとかここで暮らしていけるかもって思えるようになった。


 コータは今日はじめてあったばかりの知らない男性。そんな相手とひとつ屋根の下で暮らすのはものすごく抵抗があるけど、この世界に引っ張り出してしまったのは間違いなく私。


「放り出してこのまま死なれても寝覚めが悪いしね」

「俺だって男だし、君みたいな綺麗な女性と一緒だと襲ってしまうかもしれないよ?」

「襲おうとする人が襲うかもなんて言わないわ。それに万が一襲われても大丈夫よ」

「えっ!? そ、それってもしかして……」


 コータが驚きながら顔を真っ赤にする。あ、そっち方面に解釈したのね。


「もし襲われたら徹底的に叩きのめして追い出すから」

「……ああ、そっちの意味ね」

「当然でしょ。それに貴方、ものすごく弱そうだし」

「よ、弱いって……」


 あからさまに落ち込んでしまった。でも間違いなく弱いと思う。体格というか肉付きがものすごく細い。


 多分、コータが今まで生きてきた世界は優しい世界。でも、この世界は死がとても身近にある。


「ひとまず、周りには遠縁の親戚って説明するから」

「えっと、流石にそれは無理がないかな? どう見ても似てないし」

「でも、それしか手はないわ。血縁関係のまったくない男と同棲するなんて、周りから何を言われることか」

「そ、それなら、別の家を用意してもらえれば――」


 確かにそれができれば一番良いんだと思う。できれば、だけど。


「私だってこの町に移り住んで間もないのよ。今の私にそんな金銭的な余裕は無いわ」

「……ごめん」

「それにコータはこの世界のことを全く知らないんだから、多少のお金があったところでまともに生活できるわけがないわ」


 コータ自身もそれはわかっているみたいで、しつこく食い下がるようなことはなかった。


「ごめん、しばらく厄介になるよ」

「あまり気にしないで、コータがこの世界に来たのは私にも責任あるから。これからよろしくね」

「……ありがとう」

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