第6話では上級国民に!
つまり剣と魔法だった異世界の魔王様は、悪意ある人間たちから亜人たちを保護し、こちらで言う近代国家を造って法を敷き、制度を整え人民の人民による人民のための国を目指している、という話だった。
しかし人間たちはそれが気に入らない為に、自らの正統性の証明のためだけに勇者を欲し、世界を救うとか魔王の脅威から人々を守るなどと称して、ならず者を勇者に仕立て上げ、彼の国へと送り込んだというのだ。
(そりゃ文句のひとつも来るはずだよっ! ていうかその世界が世紀末なのは、誰がどう考えても人間の所為だって。人間そのものが魔王ポジションって……どうなんだそれ!?)
それについては一言居士氏も同意見だったらしい。
「ふ……普通は魔王が人類への侵略者のポジションだろ?」
「それは偏見よ」
と上司が言った。
「春秋の筆法って知っている?」
オカ……いや上司は首を横に振る。
作られた名君と暴君、と言うのがある。
最悪の暴君の一人に数えられる煬帝は、兄楊勇を謀略を以って廃嫡させ、自ら皇帝の座に就いた訳だが、それは最高の名君の一人とされる唐の太宗もまた、玄武門の変で彼と同じく兄弟殺しをしているからだ。
人間の評価なんてものは、出鱈目で支離滅裂で不確かでころころと変わる秋の空のようなものだ。
誰かの都合で、人は人を評価するのだから。
「だったら……」
と一言居士氏は第三希望を口にした。
「上級国民の家に生まれたい! 超絶イケメンでスポーツ万能で、特に勉強しなくても東大一発合格するくらい頭良くて、皇族とか華族の血が入っていて、それと美少女の幼なじみがいる、そんな人生を要求する!!!」
「う~ん……」
やはり上司は難しい顔をしている。
「……ダメなのか?」
二度あることは三度あるというから、今度も……と思っていたその時だった。
上司が思わぬ言葉を口にする。
「出来ないことはないわ」
「何だって?」
一言居士氏が、その言葉に動揺を見せた。
てっきり出来ないとはっきり言われるかと、雛菊でさえも想定していたその答えが、あっさりと出来ると返されたのだから。
「でも、本当に、それでいいの?」
と上司は一言居士氏へと問い直す。
「というか、顔が近いっ!」
と上司を押し返してから、一言居士氏が改めて問う。
「何か、問題でも有るのかよ?」
「だってね……」
オカ……いや上司は聞き分けの無い子供でも見るように言った。
「反体制派に命を狙われ、シークレットシューズが欠かせないチビで、滅茶苦茶不健康で、本物の天才にコンプレックスを持ち、しかも打たれ弱く、幼なじみが寝取られる、そんな人生がいいの?」
上司の言葉に唖然とする一言居士氏。
雛菊もまた唖然としていたけれど……。
確かに上司の言葉通り、それはなまじ恵まれているだけに惨めだろう。
「何だよそれっ!」
と一言居士氏は上司へと食って掛かる。
「人生って、そういうものよ」
だが、上司は苦笑しながらそう言った。
「でも、どうしてそうなるんです?」
問い質す雛菊へ、いやだわこの子……みたいな顔をして上司は答えた。
「上級国民は恨まれてるのよ。だってそうでしょ? お金持ちになるってことは、それだけの貧乏人をこしらえているってことと同じなの。イケメンが必ずしも背が高いとは言えないし、頭がいいってことは、余計な心配や気苦労をする機会がそれだけ多いのよ。しかも上には上がいるものだしね。そんな時には確実に挫折するわよ? なによりそういう人は、本当にどん底の人生を這いつくばってる人のことなんて、全くわからないからね」
(頭をカナヅチで殴られたような気分だ――)
一言居士氏もそんな顔を……していなかった。
「じゃあ、じゃあ――どうしろって言うんだよ?」
相手を責めるかのように、八つ当たり気味に一言居士氏は上司へと詰め寄った。
「これを貸してあげるわ」
と、上司が出したのは、等身大の鏡だった。
楕円形の鏡は、縁が植物の
「つまり……この鏡を覗くと、望んだ来世を見ることが出来るのよ。まあ気の済むまで見てなさい。あと雛菊ちゃん、一緒に見ていてあげてね」
再び面倒ごとを押し付けられる雛菊だった。
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