イモウトレジャーハンターの高すぎる理想
ちびまるフォイ
妹がいなければ、妹にすればいい
洞窟の中は薄暗く、たいまつの明かりでさえ数歩先が見えない。
「もう少しだ……もう少しできっと……」
数多の困難を乗り越え洞窟の最深部にたどり着くと、
開けた場所に大きな宝箱がおいてあった。
宝箱のフタをあけると中から妹が飛び出した。
「お兄ちゃん! 会いたかった!!」
そのままフタを閉めて即帰宅。
その日は普段からは想像できないほど酒を飲みまくった。
「どうしたんだよ、今日はずいぶん荒れてるじゃないか」
「苦労して、苦労してたどり着いた先の妹が好みじゃなかったんだよ!
この辛さがお前にわかってたまるか!!」
「わかるって。同じイモウトレジャーハンターだろ」
「いやわからない! 俺の気持ちなんて誰にもわかってたまるか!」
「こいつめんどくさいな」
自分を慕ってくれる「妹」という需要が世界的に高まると
各地の妹洞窟に潜り「妹」を探す彼らを「イモウトレジャーハンター」と呼ばれた。
その中でも、軍を抜いて妹を各地で発見するレジェンドであるものの
妹洞窟へのルートを確保するだけで戻ってきていた。
「今回の妹も可愛かったんじゃないのか?」
「ふん。一般論なぞ、個人の趣向の前には無力よな」
「具体的に、どんな妹が好みなんだよ」
「まず、ツインテで、巨乳で、ちょっとドジで、ヤキモチ焼きで、
スタイルは良くて、あでも身長はやや俺より低いくらい。
普段着はミニスカニーソで、ブラウス系のキレイめ系の服。
でもおしゃれにはちょっとうとくて、部屋着はもこもこパーカ。
語尾は~だよ、で口癖は「知らない!」で、おばけが苦手で、
握力が300kgを越えて、オオカミに育てられた悲しい過去がある妹だよ」
「それ人間?」
「当たり前だろ」
「そんなに条件が厳しいなら、どんな妹洞窟行ってもいるわけないじゃん。
多少は条件を妥協したほうが良い妹と巡り会えるって。
一緒に住み始めてから妥協した相手の欠点も愛おしく見える場合も……」
「理想を諦めて自分を納得させるだけの理由などに耳は貸さん!!」
「えええ……超ガンコ……」
それからもレジェンドは妹洞窟を探しては探索をし続けた。
「お兄ちゃんなんて、好きじゃないんだから!」
「次」
「お兄、近寄んないで。マジキモいから」
「次」
「しゅぴーん! 妹ちゃん登場なのだ!」
「次!!」
ついには天空の洞窟まで制覇したレジェンドは疲れ切って帰ってきた。
「ただいま……」
「その顔でわかるよ、ダメだったんだな」
「どの妹も全然ちがうんだよ。妥協しようと思ってもダメだった」
「ふふふ、そんなお前に取っておきの情報があるぞ」
仲間は赤い丸のマークが付けられた地図を取り出した。
「この洞窟は?」
「実は、お前の好みの妹がいるという洞窟を調査しまくったんだ。
で、それらしい妹がいる洞窟がそこってわけだ」
「お前……!」
「いちいち総当たりしてたら効率悪いだろ?」
「ありがとう! 本当にありがとう!」
「だけど、気をつけろよ。噂じゃ、この洞窟の最深部には
宝箱を守る薄汚く凶悪で醜悪な魔物がいるらしい」
「マジか……!」
「準備はしっかりな」
レジェンドは妹洞窟への準備をいつも以上に気を使って行った。
ありとあらゆるトラップを警戒し、遺書まで準備して、渡す人がいないことに気づいて凹んだ。
ついに決行当日。
「よし、行くか!!」
仲間をつれるとハプニングの確率が増えるので単独での洞窟攻略。
温まっているこたつが置かれていたり、
侵入者を足止めして戻れなくする恐ろしいトラップをかいくぐり、ついに最深部へ。
「出てこい魔物め!! やっつけてやる!!」
鋭く研ぎ澄まされたエクスカリバー(定価500円:税抜)を構える。
針が落ちる音すら反応するほど周囲への警戒心を最大限まで高める。
しかし、噂に聞くような魔物は1匹もいなかった。
「なんだ。所詮は噂ってことか。ああ、びっくりした」
剣をしまって念願の宝箱へと歩み寄る。
「ここに、俺の理想の妹が……!!」
宝箱を開けると、中からまさに理想ぴったりの女の子が出てきた。
「もう知らない! 好きにすれば良いんだよ!」
「おおおおおお! おぉぉぉ……」
スタイル、服装、握力までまさにぴったり、理想を体現していた。
ただ1点を除いて。
「君はいくつ?」
「〇〇歳」
「サバ読まないでいうと?」
「〇〇-10歳」
「姉じゃねえか!!」
マップを確かめると、「妹洞窟」ではなく「姉洞窟」になっていた。
景品表示法違反だとして訴えたかったが洞窟なので誰もいない。
漢字はよく似ているので見間違えてもしょうがない。
「どうしよう……」
妥協できるかの究極の決断が迫られる。そして、決断した。
・
・
・
それからしばらくすると、姉洞窟の噂は他のアネトレジャーハンターの耳にも広がり
その洞窟に挑戦する人が絶えなかった。
けれど、誰一人として、姉を手に入れた人はいなかった。
「噂通りだったよ、最深部に恐ろしい魔物が待っていたんだ。
あまりに強くてすぐに引き返しちゃったよ……怖すぎた。
襲ってくるとき、"あと10年待てば!"って言ってたけど、どういう意味だろう?」
イモウトレジャーハンターの高すぎる理想 ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます