第5話 死者からの使い 門限
律架が自宅の最寄り駅に着いた頃には門限である18時を1時間過ぎていた。便利屋を出てすぐにスマホを確認すると既に、兄と主治医からのLINEが届いていて、とりあえず、兄ではなく主治医に事情を手短にLINEしておいたが・・・。自宅に帰った途端に質問攻めにあう事は目に見えていた。
律架は憂鬱になりながら自宅への道を歩き、しばらくすると大きなモダンな家が見えてきた。それが、今の彼女の自宅だった。
“ガチャッ”
「ただいまー・・・」
「お前!今まで何しとったねん!!」
ただいまと言ってから1秒も経たないうちに兄・橋場奏一が飛び出してきた。その後ろから主治医である松谷慧が顔をのぞかせた。
「LINEに返信あったもんな。俺は怒ってへんで」
「俺のLINEは完全無視や!お前な、誰が・・・っておい!ちょっと待て!!」
「はいはい。もうごめんってー」
律架は玄関先で話すのが鬱陶しくなり、兄の話を聞き流しながらリビングへ向かった。リビングに入ると、途端にいい匂いがしてきた。キッチンにはかなり身長差のある2人組が立っていた。
「ただいまー。佳希くん、大希くん、今日晩御飯なにー??」
長身なのが弟の坂崎佳希、小さいのが兄の坂崎大希。兄と弟と書いたが、双子の兄弟である。そして2人とも坂崎雄太の弟である。
「あ。律架やっと帰ってきたー。遅かったなあ。今日の晩御飯は匂いの通りカレーやで」
「うん。家入ってきた時から気づいてた(笑)」
「律架。後ろ見て。兄貴の顔見て(笑)」
そう律架に声をかけたのは、昼間に大学で偶然会った坂崎雄太だった。
「裕太君。見たくない(笑)」
「おい。奏一。まあそう怒っとらんとさ。律架も大学生なんやし、手術もして体調もここ最近はかなりええんやし、あんまり神経質になるなって」
同期である裕太からそう言われたこともあり、奏一はとりあえず律架への説教を諦めたようである。後ろで傍観していた慧が裕太に尋ねる。
「そう言えば、北斗と響平は??」
「北斗は当直や言うてたで。響平は・・・帰ってくるやろか?論文の手伝いせなあかんいうてたし」
「そうなんや」
松谷北斗と橋場響平は共に南條医大の研修医である。
ここまででお気づきだろうがこの家、三家族が同居している。このモダンな屋敷の持ち主は、松谷第一病院を経営する松谷家で、その息子が松谷慧と松谷北斗。慧は松谷第一病院の呼吸器内科医、北斗は南條大学病院の研修医である。2人の両親は家のことを2人に任せて、無医村などを転々としながら医療活動をしているためここにはいない。
その松谷家と昔からの付き合いなのが橋場家と坂崎家で。この2組の家族の子どもたちも松谷家の影響を多大に受けて皆、医師と看護師になり松谷第一病院で働いている。みんなが同じ病院で働き始めたのと同時に松谷家の両親が医療活動の旅に出たため、病院に近いこの屋敷で子どもたち8人がシェアハウス的に暮らすことになったのだ。もちろん、それぞれに家はありたまには自宅に帰るが、ここの方が便利が良いため、ほとんどの時間をこの屋敷で過ごしている。
裕太の一声で奏一の怒りが治まったところで、双子が作っていた夕飯のカレーが出来たようだ。夕食中はOLのようにおしゃべりな双子が率先して会話するいつもの感じだったので、律架に深く話を振られるようなことはなく、裕太も昼間律架と会った時のことを話さなかったので、アルバイトのことなどはバレなかった。
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