第4話 死者からの使い プライバシーの自己防衛
倉橋は飛び出していった律架を探そうとしたが見つからず、諦めて戻ってきた。
「見つからなかったのか」
「ああ。半分社長のせいやで。彼女に煮え切らへん返事するから」
「今のは関係ないだろ。しいて言うなら、そこに人が居ることを見ていなかった川原のせいだ」
川原とは便利屋ハウツーの依頼請負人および外回りを担当する男のことで、都会のビルの屋上などから事務所内を狙ってピタリと矢を放つ天才でもある。
「ていうかさ。30年前とは違うねんから。今時スマホがあるんやし、ていうかだいぶ前からガラケーとかポケベルとかはあったわけやしさ。なんでよりによって矢文(やぶみ)なわけ?果たし状かっ!!いつの時代やねん」
「その話は大分前にしただろう」
「せやけど。もう今の時代、プライバシーもきちんと守られてるし。社長にトラウマがあるのは分かるんやけどさ。矢文は無いで矢文は」
川原は絶対に矢を外さない。ということは、その矢文は誰の目に触れることも無く必ず便利屋ハウツーの事務所内に届く。これが一番のプライバシー保護だと社長は主張しているのだ。社長がここまでプライバシー保護にこだわるのには過去の事件が関係しているようで・・・。詳しくは倉橋すらも教えられていない。
「矢文と言っても先についてるのはタダの磁石だ。そこまで危険ではない」
「また論点をすり替えるし。・・・まあええわ。俺らだけならそこまで支障はないわけやし。で、依頼は何ですかねー?」
そう言いながら倉橋は矢から文の部分を抜き取る。そして依頼文を読むと、倉橋はますます残念な顔になる。
「ほらー。社長。やっぱり彼女が必要ですよ」
「どういうことだ」
「出来れば女性の便利屋さんお願いしますって書かれてますよ。一発目から彼女に頼める仕事やったやないですか!」
「・・・。依頼はなんなんだ」
社長はそう言いながら倉橋から文を奪い取る。
「・・・1ヶ月前に失踪した彼を一緒に探して貰いたいです。警察が動いてくれないので、便利屋さんにお願いしています。明日の午後から、心当たりがある場所に一緒についてきて欲しいです。・・・なるほど。心当たりがある・・・?これは1人だと、見つけたときにどうなるか分からないということか」
「そうかもしれないっすね。例えば暴力を振るわれるかもしれないとか」
「それなら女性の便利屋ではなく、男性の便利屋、もっと言うなら護身に長けた探偵などを雇うべきだ」
「もしくは、自分が暴力を振るってしまうかもしれないとか」
「・・・そういうことも・・・ありえるか」
「ありえる。理性を保つために同性の便利屋を求めているのかも」
「憶測ではどうにもならないが、うちは便利屋だ。依頼者が女性を望むのなら女性の便利屋を出さないといけない。しかしうちにはいない。この依頼は断るしかない」
「ちょっと待ってや。ただでさえ赤字やねんで。依頼を断るのはありえへんわ。・・・分かった。俺が明日の午前中までになんとかするから」
「・・・お前な。彼女が了承してくれるかもわからないのに、明日までこの依頼への返事を引き延ばすわけにはいかないだろ」
「大丈夫やって。彼女、絶対興味あるから、この仕事」
倉橋は自信満々にそう言って、文に返事を書き外にある川原用のポストに入れた。このポストに入れておけば川原が自分のタイミングで取りに来て、依頼者に直接返事がかかれた文を届けてくれる。
その様子を見て社長はため息をつきながらも止めなかった。社長の眼にも、律架は便利屋に興味があるように映っていた。
そのまま倉橋が事務所を後にし、便利屋ハウツーの本日の営業は終了した。
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