イロナ・コルヴァンの日記
十月二十五日
モリアーティ! モリアーティ! モリアーティ!
よくもだましてくれたわね。絶対に許さない、絶対に。その報いはかならず受けさせてやるわ。
けれど今は、とにかくトラシンシルヴァニアへ、スコロマンスへ戻らなければ。一刻も早く戻らなければ。シャーロック・ホームズの推理が確かなら、一分一秒も無駄にしてはいられません。
すぐにもドーバー海峡を渡ってしまいたいところでしたが、海はなかなか満潮にも干潮にもなってくれませんでした。出港時刻を遅らせようにも、トランシルヴァニアの土を失ってしまったため、魔術で嵐を起こすことも霧を発生させることもできません。船を波止場から何度もむなしく見送るハメになりました。
ようやく干潮になって船へ乗り込みました。蒸気船というものが発明されて本当にありがたく思います。もしも帆船しかなかったら、今度は波が出るまで立ち往生していたでしょう。それでも魔術さえ、魔術さえ使えていれば、波を起こすこともできたのですけれど。
今はオリエント急行に乗っています。定刻通りなら、二日後にはブカレストに到着するはずです。そこからは馬頼りとなります。
機関車というのは、もっと速度を出せないものなのでしょうか。もどかしくてたまりません。四百年前、六本脚の駿馬を駆って、アニチカのもとへ向かったときも似た焦燥感に駆られていました。
早く、早く。
わたしの大事な生徒たち。アマーリア、イブロンカ、ユリシュカ、ドロッチャ、ダルヴリャ、エルジェーベト、アンナ、カタリン、ベアトリクス、オルショリャ――みんなお願い、どうか無事でいて。
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