ワトソンの手記

九月十七日

 あれからハーカー夫妻へ数度にわたり手紙や電報を送ったが、なぜか一通の返事も戻ってくることはなかった。こうなったら直接会いに行くことを、ホームズは何度も検討した。けれどここ数ヶ月は非常に多くの依頼が舞い込んでしまい、ロンドンを離れられなかったのだ。もっとも、おかげで伝記のネタをたくさんストックできたので、私としてはありがたかったが。「ボスコム谷の謎」「株式仲買店員」「唇の捩れた男」「背中の曲がった男」「海軍条約文書」「ボール箱」「技師の親指」これらはほんの一部に過ぎない。

 私はこの状況に、何者かの作為を感じずにはいられなかった。まるで、われわれがロンドンから離れるのを阻止しようとしているかのような。考えすぎだろうか。

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