五月五日

 ついに昨夜、わたしたちは目的を果たしました。とうとうサー・チャールズ・バスカヴィルを死なせることに成功したのです。

 魔犬の噂に追い詰められて、ここ一ヶ月でサー・チャールズの持病はすっかり悪化していました。今日には療養のためロンドンへ発つ予定だったのだとか。そこへトドメの一撃を食らわせるべく、ステイプルトンがお膳立てをととのえたのです。それがよりによって聖ジョージの日前夜とは、何という偶然だったのでしょうか。

 具体的なことは知りませんが、ステイプルトンは何らかの方法で、サー・チャールズを真夜中にバスカヴィル館の門前へ呼び出しました。それから待ちぼうけを食らわせて、苛立ちが最高潮まで高まった頃合いを見計らい、わたしが変身した魔犬をけしかけたのです。叫びながら必死で逃げるサー・チャールズの背中を、わたしはつかず離れず追い続けました。

 やがてイチイの小道まで到ったところで、彼は転んで動かなくなりました。心臓が限界を迎えたのでしょう。その死に顔は信じられないほどすさまじくゆがんでいて、彼の恐怖の対象であったわたしとしては若干複雑な心境でした。ただオオカミの姿で追いかけただけなのに、ここまでこわがられるとは。

 とにかくこれで頼まれた仕事は終わりました。ようやくトランシルヴァニアへ帰ることができます。

 いえ、忘れるところでした。わたしの目的はドラキュラ伯爵の仇討ちであって、英国の田舎貴族を暗殺することではないのです。まあともあれ、飼い犬のごとく鎖につながれた生活とはおさらばです。同じことを頼まれても、もう二度とやりたくありません。

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