五月四日

 とうとう明日は聖ジョージの日です。どうせ間に合わないとあきらめていたことではありますが、それでも気落ちせずにはいられません。わたしにとってはクリスマスよりも楽しみな行事ですから。

「気になっていたけど、なぜ聖ジョージの日にこだわるんだい?」

 そうわたしに尋ねてきたのはモリアーティ教授の部下で、フレッド・ポーロックです。わたしの世話役をまかされました。彼女は男装の麗人で、背が高く声はハスキー、髪も短く切りそろえています。その中性的な美貌から匂い立つ色気には、男女関係なく惑わされることでしょう。かく言うわたしもそのひとりです。

「知りたいの? あまりよそ者に話すことではないのだけれど」

「祖父いわく、ぼくの先祖はトランシルヴァニアのザクセン人だったそうだよ。嘘か本当かはわからないけれど」

「まあいいわ。特別に教えてあげる。トランシルヴァニアは何世紀にもわたって、侵略者の脅威にさらされてきた土地なの。だからトランシルヴァニアの民たちは、自分たちの財産を万が一にも敵に奪われまいとして、いざとなると地面に埋めて隠してきた。その多くが持ち主を失って掘り起こされないまま、今も暗い土の下で眠っているわ。普通なら見つけ出すのは容易ではないでしょうね。でも聖ジョージの日前夜、財宝が埋められた場所に青い炎が現れるの。悪霊のしわざとか言われているけれど、ハッキリしたことはさだかではないわ。わかっているのは、青い炎が出たところを掘れば、かならず財宝が見つかるということだけ。だからその夜には、トランシルヴァニアの誰もが躍起になって青い炎を探すの。わたしもスコロマンスの生徒たちと協力して、毎年荒稼ぎさせてもらっているわ」

「それで見つけた金銀財宝は、一年で使い切ってしまうのかい?」

「まさか。数百年分が山のように貯め込んであるわよ。おまえにも見せてあげたいわ。きっと腰を抜かしてしまうわね。暗い洞窟のなかなのに、照らすとまるで真昼みたいに明るく輝くの」

 わたしの話に、ポーロックはだらしなくよだれをこぼすほど夢中になっていました。案外子供じみたところもあるのですね。

 そんなかわいらしい姿を見ていたら、何だか食欲が出てきました。

 わたしの世話役というのは、ようするにそういうことです。教授からの伝言を知らせてくれたり、アマーリアへの手紙を預かってもらたりもしましたが、わたしに血を吸わせるのが本来の役目でした。

 わたしはポーロックのシャツをはがけさせ、肩口を露出させると、外頸動脈に噛みつきました。血を啜り上げるたび、彼女はせつない声をもらします。彼女の血は舌がしびれるほどに甘かったです。今夜も死なない程度に吸わせてもらいました。

「不死身になりたかったら言って。いつでも吸い殺してあげるから」

「……遠慮しておくよ。永遠の命に興味はないからね」

 つれない態度も悪くありませんでした。うっかり殺してしまわないように気をつけないといけませんね。

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