セワード医師の日記(蝋管録音機による記録)

四月五日朝

 今朝のデイリー・テレグラフ記事に、私は衝撃を受けた。考えすぎだろうと思いつつ、かつてハーカー夫人がタイプした原稿の束を読み返して、疑念は確信へと変わっていった。

 その分厚い原稿に書かれているのは、私たちが愛したひとりの女性と、誇るべきひとりの親友を失った、忌まわしい事件の記録――つまりは、かのドラキュラ伯爵と戦った日々だ。

 もしかしたら今、ここロンドンはふたたび、おそるべき吸血鬼の脅威にさらされているのかもしれない。

 一見すると、切り裂きジャックの犯行に思えるこの事件だが、わかる者はわかる。これは吸血鬼の所業だ。

 吸血鬼は自在に霧を発生させることができる。その能力を駆使すれば、犯行を目撃されないようにするくらい朝飯前だ。遺体から血が失われていたのは、全部飲んでしまったからだろう。連中によって吸血はゆいいつの栄養補給であり、吸わなければただの人間と同じく肉体が老いてしまう。もっとも、吸血すればすぐにまた若返るのだが。わざわざ刃物で血を流させたのは、吸血鬼のしわざだということをごまかすためか。吸血鬼に血を吸われて死ぬと、その人間も吸血鬼になってしまう――四年前のルーシーと同じく。だが直接噛みつかれなければ、被害者が吸血鬼化することはない。

 もし予想通り殺人犯が吸血鬼だとすると、そいつはいったい何者なのだろうか。ドラキュラ伯爵はジョナサン・ハーカーとクインシー・モリスの手で間違いなく退治された。ドラキュラ城にいた三人の女吸血鬼も、ヴァン・ヘルシング教授が始末している。根絶やしにしたはずだったが、どこかに生き残りの眷属がいたのか。あるいはまったく別の吸血鬼か。そういえば教授が言っていた。伝承によると、伯爵はスコロマンスという悪魔学校で秘術を学んだとか。ひょっとしたら今回の吸血鬼もそうかもしれない。

 あの事件以降、吸血鬼がふたたび現れたときに備えて、われわれはけっして警戒を怠っていなかった。土の詰まった大きな箱や棺桶などがいくつも運び込まれたら連絡するよう、港湾労働者組合に話を通してあったし、ゴダルミングが慈善事業を利用し、吸血鬼が潜伏しやすそうな空き家――伯爵が実際使った隠れ家も含め――を使えなくしたり、墓所に見知らぬ棺が増えていないか、墓地の管理人に注意するよう呼びかけたりもした。にもかかわらず敵はこちらの網をすり抜け、犠牲を得てしまったとは。不覚だ。

 とはいえ、まだ殺人犯が吸血鬼と決まったわけではない。吸血鬼のしわざを思わせる状況が、たまたま出来上がってしまっただけなのかもしれない。ここはハッキリさせる必要がある。

 ゴダルミングはハネムーンで不在だ。また身重の夫人を思えば、ハーカーにも声をかけるわけにはいかない。となると頼れるのはやはりヴァン・ヘルシング教授だけだが、あのひともいいかげん歳だし、あまり負担をかけるのも気が引ける。せめて本当に吸血鬼のしわざと確定してからだ。ひとまず私一人で調査するとしよう。

 ――おっと、ひとが訪ねてきたようだ。こんな朝から来客とは、いったい誰が何の用だろうか?

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