ドラキュラ伯爵からイロナ・コルヴァンへの手紙

十月一日 ロンドンにて

親愛なるドラキュラ伯爵夫人へ

 息災か、などというのは愚問だな。私はロンドンへの引っ越し作業はひとまず完了し、ようやくひと息つけたところだ。パーフリートのカーファックス屋敷は大変居心地がよい。拠点はほかに二ヶ所、マイルエンド・ニュータウンのチックサンド街一九七番と、バーモンジーのジャマイカ・レーンにある。これから時間をかけてさらに増やしていき、最終的には五十ヶ所を目指している。

 英国は想像していた以上の文明国だった。実にすばらしい。知識ではかなり詳細に理解していたつもりだが、やはり実際目にするのとではまったく違う。君にもぜひ見せてやりたい。おそらく腰を抜かすことだろう。スコロマンスの生徒たちもぜひ連れて来るといい。

 ただし、君たちをこちらへ招待するのは、悪いがまだ待っていてほしい。というのも、少しばかり面倒な連中に目をつけられてしまってね。ヘルシングとかいう赤毛の男と、その仲間たちだ。せっかく最高の状態で眷属にしてやったルーシーを、わずか数日でこいつらに殺されてしまった。まったくもっていまいましい。

 だが安心してほしい。オスマン帝国の大軍に比べれば、たかが数名の素人など物の数ではない。できるだけ早く露払いを済ませて、君とロンドンで再会できる日を楽しみにしている。


追伸

 あいにくルーシーを早々に失ってしまったワケだが、代わりに新たな娘を手に入れておくつもりだ。ミナという娘だが、単に外見が美しいだけではなく実に聡明で、きっと君も気に入るに違いない。何ならスコロマンスの生徒にしてもいいだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る