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イロナは六本脚の馬にまたがり、スコロマンスへと戻って来た。
するとナジセベン湖の前で、悪魔が待ち構えていた。
「よく戻って来たなイロナよ。わらわの副官となる覚悟を決めたか」
「いいえ悪魔よ、わたしはおまえの副官にはならないわ」
「ならばイロナよ、エルデーイにペストを蔓延させたいのか」
「いいえ悪魔よ、そんなことは絶対にさせないわ」
「イロナよ、ならばそなたの望みは何なのじゃ?」
イロナは答えた。「わたしの望み、それはおまえを地獄へ追い返すことだわ。スコロマンスの悪魔――いいえバアルよ。去るがいい。ここはおまえのいるべき場所ではない」
「おお、なぜ貴様がわらわの名を知っているのじゃ? しかしその名とともに命じられてしまっては、もはや逆らえぬ」
真の名前を呼ばれた悪魔は、副官の肉体から即座に追い出され、地獄へと真っ逆さまに落ちてしまった。
悪魔から解放されて自由になった副官は、イロナにひざまずいてこうべを垂れた。
「お助けいただきありがとうございました。わたくしはベチャーロシュの子ユディカと申します。この命はあなたさまのもの」
「ならユディカ、おまえに任務を与えるわ。われらの恩人であるドラキュラ伯爵の弟が、コンスタンティノープルのハレムにいるの。その男はあろうことか実の兄を裏切り、オスマン帝国に寝返った卑怯者よ。おまえはハレムへ潜入し、ヤツの首を獲ってきなさい」
「かしこまりました。一ヶ月ほどお待ちいただければ、その男の首をごらんに入れましょう」
ユディカはとんぼ返りしてコウモリに変身すると、コンスタンティノープルの方角へ飛び去った。
言葉通り、一ヶ月後にはユディカが弟の首を持って帰還したので、イロナはそれをドラキュラ伯爵に贈り、感謝の気持ちを表した。
それからイロナは悪魔に代わり、スコロマンスのあるじとなった。
一方、オスマン帝国がふたたび侵略の動きを見せたので、武勇に優れるドラキュラ伯爵は幽閉を解かれると、ハンガリー王国の君主に選ばれたマーチャーシュ王の代わり、エルデーイの領主に封じられた。またおたがいの絆を深めるため、彼はマーチャーシュ王の妹イロナと結婚し、盛大な宴が催されたのだった。実を言うとわしもその宴に呼ばれて、ごちそうをたらふく食べた。
以後、ふたりはエルデーイをそれぞれ表と裏から支配した。死んでいなければ、まだ生きているだろう。
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